あけましておめでとうございます。

本年も御愛読いただければ幸いです。

 

 

今年の干支は亥というわけで

吉例につき新春一冊目は

猪がらみのミステリを読もう

と思ったのですが

これが意外と少ない。

 

というか、ほとんどない。( ̄▽ ̄)

 

苦労していくつか思い出してみたものの

書名に「いのしし」の文字が入っているのは

今回の本くらいでした。

 

『大尉のいのしし狩り』

(深町眞理子・白須清美他訳、晶文社、2005.6.20)

 

デイヴィッド・イーリイは

1961年に短編作家としてデビューし

1967年に「ヨットクラブ」で

アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)の

最優秀短編賞を受賞。

 

1960年代から70年代にかけて

日本語版『EQMM』や

その後継誌である

早川書房の『ミステリマガジン』に

よく訳されていたものでした。

 

自分がその名前を知ったのは

小鷹信光の『パパイラスの舟』(1975)を

読んでからではないかと思います。

 

 

『大尉のいのしし狩り』は

晶文社ミステリの一冊として刊行された

日本オリジナル編集の作品集です。

 

本国での第1短編集

『ヨットクラブ』(1968)が

同じ晶文社ミステリの一冊として刊行され

好評だったのを受けて

まとめられたのでした。

 

 

本書は、出た当時に

買ったとばかり思っていたんですけど

晶文社ミステリをまとめてある棚を探してみたら

なんと! 見当たらず

古本で買う羽目になりました。

 

ブログのネタのために

買ったような形になりましたが

ネタにしようと思わなければ

持ってないことに気づけなかったわけで

結果的にラッキーでしたかね。

 

 

表題作は

第2次世界大戦が終了したばかりの

ドイツが舞台。

 

規律を屁とも思わない

テネシー出身の荒くれ4人組の兵士

(後に戦死して3人組)と

規律に厳しい新任中隊長との

確執と、その顛末を描いた物語です。

 

まあ、ぶっちゃけ

さほど出来がいいとも思えませんでした。(^ ^;

 

 

本書に収録された15編中

印象に残ったのは

「グルメ・ハント」と

「いつもお家に」の2編です。

 

イーリイの短編は

息詰るような緊張感が持味だとばかり

思っていたんですけど

「グルメ・ハント」が

グルメをからかうような

アイロニカルでユーモアあふれる

寓話的な作品だったので

ちょっと驚かされました。

 

ユーモアという点では

「最後の生き残り」なども

ちょっと印象に残る話でしたけど

そちらよりも、いわゆるオチが

見事に決まっていると思います。

 

 

「いつもお家に」は

ほんとに息詰るような短編。

 

家に人がいるように見せかけるため

録音された声が流れ

ホログラムで影が窓を横切るという

泥棒よけのセキュリティを備えた家に

引越してきた主婦を襲う事態の迫力が

突出していました。

 

 

MWAの候補作「別荘の灯」は

ちょっとありがちというか

古風な感じ。

 

安部公房が書くような

不条理な小説が好きな人には

「緑色の男」や「昔に帰れ」、

「スターリングの仲間たち」あたりが

おススメかもしれません。


 

『ヨットクラブ』の解説にもありましたが

イーリイの作風は

早川書房の『異色作家短篇集』という

シリーズに収められても

違和感のないものばかり。

 

江戸川乱歩のいわゆる

「奇妙な味」系列の作品だと

いってもいいかとも思います。

 

そういうタイプの作品は

嫌いではないのですが

まとめて読んでしまうと

どうしてもオチばかり

気にしてしまいがちになります。

 

だからオチが今ひとつ

ないし、古風だったりすると

うーん、ということになりがち。

 

雑誌の中に

他の作家の作品に混じって

載っている分には

さすがイーリイ先生

というふうに感じる作品でも

その「さすがイーリイ先生」が

まとめて来ちゃうわけですから

もういいよ、という感じになっちゃう

可能性もなきにしもあらず。

 

その中にあって

「グルメ・ハント」と「いつもお家に」は

頭ひとつ抜けている気がするわけです。

 

 

その「グルメ・ハント」と「いつもお家に」、

そして「最後の生き残り」の掲載誌は

いずれもミステリ専門誌ではなく

スリック・マガジン slick magazine

(光沢紙を使った高級雑誌)の

『プレイボーイ』です。

 

たとえば

『ヨットクラブ』収録の

「カウントダウン」の初出誌は

本国版『ヒッチコックマガジン』だと知って

「グルメ・ハント」と読み比べれば

いわゆるオチのあるミステリと

そうでない異色作家短篇との違いが

よく分かるような気がした次第。

 

 

蛇足ながら

『ヨットクラブ』は

本国で刊行された第1短編集を全訳したもので

日本オリジナル編集版ではありません。

 

『ヨットクラブ』

(1968/白須清美訳、晶文社、2003.10.30)

 

その後、原題通りに

『タイムアウト』と改題され

河出文庫の1冊として再刊されています。

 

 

昨年末に初めて

通しで読んでみましたが

表題作の「タイムアウト」は

ユーモアとアイロニーが感じられる傑作でした。

 

SFファンにも評判が良かったのだとか。

 

バロック音楽ファン

ないし現代音楽ファンには

「オルガン弾き」もおススメ。

 

イーリイに

こんなユーモアのセンスがあるとは

思いもよらず。

 

「グルメ・ハント」は

「タイムアウト」や「オルガン弾き」の

流れにある作品であることが

改めて腑に落ちたりします。

 
 
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