(高山真由美訳、創元推理文庫、2018.5.11)
ロバート・ロプレスティという
日本初紹介(たぶん)の作家が
『アルフレッド・ヒッチコック・
ミステリ・マガジン』に発表した作品と
ボツになった作品をまとめた
Shanks on Crime(2014)に
単行本刊行後、同誌に発表された短編
「シャンクス、悪党になる」(2016)を併録
(今風にいえばボーナス・トラックとして収録)する
日本オリジナル版です。
シャンクスというのは
レオポルド・ロングシャンクスという
ミステリ作家の通称で
事件を解決するのは警察であり
ぼくは話を作るだけだと言いながら
意図せず事件に巻き込まれて
解決ないし対処する羽目になる
というパターンのお話が
14編、収録されています。
殺人事件もあれば
詐欺事件や強盗事件もあり
中には犯罪とはいえないものも
あったりします。
それでも、するすると
あっという間に読ませてしまうのは
ユーモアあふれる語り口が
優れているからといえるでしょう。
常連の作家仲間とのやりとりも面白いし
やはり作家である妻とのやりとりも面白い。
シャンクスの妻は
いわゆる一般文学の書き手であり
夫よりも売れているようですが
だからといって
意識高い系のうるさ方
というわけではありません。
シャンクスも
男としての矜持を前面に出す
マッチョ・タイプというわけではなく
かといって
恐妻家というわけでもありません。
妻を怒らせないように
話す言葉に気をつけながら
そこそこ上手くやっている
という感じで
まあまあ標準的な作家夫婦
というところだと思います。
各編の最後には
作者のあとがきが載っていて
ちょっとアイザック・アシモフの
『黒後家蜘蛛の会』を思わせます。
アシモフもそうでしたけど
あとがきを通して
舞台裏を知ることができるのも
楽しみのひとつとなっています。
採用にならなかった作品が
なぜボツになったのかを
考えてみるのも一興でしょう。
本シリーズが掲載された
『ヒッチコック・マガジン』ですが
昔、そういう誌名で
日本版が出ていたこともあります。
日本版廃刊後は
これも今はなき『EQ』という雑誌や
『ハヤカワ・ミステリマガジン』に
本国版『ヒッチコック・マガジン』から
短編が訳されることがありました
『ヒッチコック・マガジン』といえば
思い出されるのが
ジャック・リッチーや
ヘンリイ・スレッサー
といった作家たち。
海外ミステリ・ファンでなければ
リッチーもスレッサーも
知らないかもしれませんけど
2人のシャレた短編は
日本でも人気を博していたものです。
そういう
どこか懐かしい感じがする
リッチー=スレッサー路線の
短編がお好きな方なら
楽しめるのではないかと。
海外でミステリの短編集が出るのは
珍しいという印象があります。
雑誌にたくさん書いていても
本としてまとめられるのは
ごく少数という状況で
1冊にまとめられたわけですから
よほど評判がいいか
出来がいいとみて
間違いありません。
ですから
「どこか懐かしい感じがする
リッチー=スレッサー路線」
なんていう言葉に、二の足を踏まず
読んでいただけると
きっと楽しいひとときが
過ごせるでしょう。
ちなみに個人的なおススメは
「シャンクスはバーにいる」
「シャンクス、物色してまわる」
「シャンクスの怪談」
「シャンクスの記憶」
「シャンクス、タクシーに乗る」
あたりかな。
もっとも
作品そのものの出来ばえより
各作品に見られる
ユーモラスな語り口やギャグなどが
印象に残る感じなので
あくまでも仮のものですけどね。
「特に君の年齢なら……」
という言い回しが何度も出てきて
笑いを誘う一方で
シャンクスの行動自体には
首をひねってしまった
「シャンクス、強盗にあう」なんて
そういうタイプの典型かもしれません。
いずれにせよ
読んで損した気分にならなかった
おススメの1冊です。