(幻戯書房、2018.8.15)
今年は小沼丹の
生誕100年だったようで
うかつにも
本書のオビを見て教えられました。
銀河叢書というシリーズの1冊で
同じくオビに拠れば
初版は1000部だそうです。
そのせいもあってかあらぬか
ややお値段は高め。
それでも
「著者最大の探偵小説である表題中篇ほか」
「入手困難な力作全5篇を初書籍化」
と惹句で書かれていては
(honto で見たんですけど)
これは買わねばなるまいて
となるでしょう。
ところが
ちょっと入手に苦労しましてね。
7月31日(火)に発売だと知って
新宿校での夏期講習帰りに
紀伊國屋書店に寄ってみたところ
まだ入っておらず
1日置いて8月2日(木)に寄ってみても
まだ棚に並んでいませんでした。
というわけで
店員に聞いてみたら
どこかから出してきてくれました。
出してきてくれた本のオビ背を見たら
なんか印刷がズレてるっぽいけれど
デザイン的な処理といえなくもなく
せっかく出してきてくれたことでもあり
そのまま購入した次第です。
ちなみに先日(8月10日)
調べものがあって
駒場の日本近代文学館に行った帰りに
下北沢にある「B&E」とかいう
変わった書店にたまたま立ち寄ったら
平積みになっており
おやおや、という感じ。
だったらそちらで手に取って
じっくり選べば良かったんですが
まさかそんなふうに出くわすとは
神ならぬ身の知るはずもなく。
ちなみにオビ背は
印刷がズレているのではなく
デザイン的処理であることが分かり
それは幸いでしたけど。
そのB&Eという書店は
新刊書店なんですけど
奇妙な書店で
ちょっと面白いんですが
それはまた別の話ということに。
表題作の「不思議なシマ氏」というのは
『プリンス』というタイトルの
自動車会社の出していた雑誌らしく
そんな雑誌があるのはもとより
そんな雑誌に連載していたなんて
知るはずもなく、びっくりでした。
パラサイトというか
母親と同居して
父の遺産で暮らしている
画家のナカさんが
ひょんなきっかけで
シマ氏という
不思議な紳士と知り合います。
そのシマ氏が
ナカさんが親しくしている
青年が巻き込まれた事件を
解決するまでの顛末を
描いているのですけど
ナカさんがのんびりしすぎていて
読者の方が真相に気づいてしまうため
読んでいる間はじれったくでしょうがない。
にもかかわらず
結末で、あっと言わされる
仕儀となりました。
「著者最大の探偵小説」というのは
過褒のような気がしますけれど
不思議な後味を残す話です。
ちなみに
日本近代文学館に行った際
資料のコピーを待っている間
小澤書店版『小沼丹作品集』を出してもらって
直木賞候補作の「二人の男」を読み始めたら
シマという名前の男が出てきたので
びっくり。
設定からして別人ではありましょうが
ちょっと不思議な感じがして
文字通り〈不思議なシマ氏〉体験を
してしまったのでした。
単行本『不思議なシマ氏』には他に
別名義で発表した「剽盗と横笛」という
スリラー・タッチの短編と
スペインと日本の風流滑稽譚が各一編、
そして、学生向けの新聞に連載した
中編の漂流譚が収録されています。
日本を舞台とする風流滑稽譚は
『西鶴諸国ばなし』が原作だそうで
漂流譚の方も
日本人が初めてメキシコを見聞した
実話に基づいているようです。
スペインを舞台とする風流滑稽譚も
いずれ、原作がありそうですね。
それにしても
表題作以外のうちのどれが
オビにある「チェスタトン風コント」なのか
ちょっと見当がつきませんけど
あるいは「剽盗と横笛」かしらん。
うーん、どこがチェスタトン風なのか
チェスタトンの
どんな作品をイメージしているのか
ちょっと説明してほしい感じ。
ちなみに
72ページ8行目の行頭
ダッシュ(——)が落ちている気がしますし
236ページ後ろから3行目の
「鍔の拾い帽子」は
「鍔の広い帽子」の誤植でしょう。
原文ママの可能性もありますが
まあ、誤植でしょうね。
そういえば
日本近代文学館で読んだ
小澤書店版『小沼丹作品集』収録の
『懐中時計』の目次にも
ものすごい誤植があって
眼を疑いました。
当時は著者が健在でしたから
版元は平謝りに謝るはめに
なったのではないでしょうか。
校閲は気をつけないとね
……と、自戒の意味もこめて
書いておくことにします。(⌒-⌒; )


