イギリスでは
『クロエへの挽歌』(1937)と
前後して刊行された
長めの中編ともいうべき作品です。
日本では、おととしに出た
『キャンピオン氏の事件簿 III』に
収録されたものが
本邦初訳となります。
(1937/猪俣美江子訳、創元推理文庫、2016.11.30)
アメリカで刊行された短編集
Mr. Campion: Criminologist(1937)にも
収録されていますので
日本でも、短編集の一編という扱いに
なったものでしょうか。
原題は The Case of the Late Pig で
邦題はこれを直訳したもの。
原題を目にした時から
Late Pig ってなんだろう
と想像をふくらませていたんですが
なるほどそういう意味でしたか。
個人的には
「死せる悪童への弔辞」とか
もう少しおしゃれな邦題に
してほしかったなあと
思わないでもないんですけど。( ̄▽ ̄)
タイトルで豚野郎と呼ばれているのは
お馴染みアルバート・キャンピオンが
学校時代に同級生だった
いじめっ子です。
キャンピオンは
従僕のラッグが驚くほど
壮絶な目にあってますけど。
その豚野郎が死んだという記事が
新聞に載ったのと同じくして
キャンピオンのもとに
奇妙な内容の手紙が届きます。
興味を抱いたキャンピオンは
豚野郎の葬儀に参列するのですが
そこで、生前の豚野郎そっくりの
咳払いを耳にします。
その後、
ある村の警察署長を務める知人宅から
殺人事件が起きたという報を受けて
村に行ってみると
そこで見た死体は
豚野郎そっくりだった……
という出だしです。
解説によれば
父親の死の悲しみを
まぎらわせるために書かれた
とのことで
そのためか
同時期の長編に比べると
異様に明るいタッチの作品になっています。
今回が再読ですが
ほとんどドタバタに近い明るさに
こんなテンションだったかと
びっくりさせられました。
村の警察署長を務める
陸軍大佐の娘が
どうやらキャンピオンに
ホの字のようで
謎の女性が訪ねてきたりすると
すぐにふくれてしまうというあたり
コメディ映画のようです。
キャンピオンも
憎からず思っているようです。
時系列的には
『クロエへの挽歌』および
『屍衣の流行』(1938)の
前っぽいので
前者でのひとめ惚れや
後者でのアマンダの関係と
感情的な矛盾はありません。
でも、上記2作品を
先に読んでいると
別人かと思えるくらい
能天気なノリなんですよねえ。
ミステリ的には
豚野郎の葬儀と
村での殺人事件との関連や
豚野郎殺しに
ちょっとしたトリックを
こらしているあたりが
読みどころになるでしょうか。
死体が安置所から盗まれて
川に突き落とされるという
一見するとドタバタ風の展開も
それなりに理由が示されていますし
確かに、解説でいわれている通り
アリンガムには珍しい
端正な(あるいはコージーな)
本格ものかもしれませんね。
文庫本の表題作になっている
「クリスマスの朝に」は
「今は亡き豚野郎の事件」から
かなり後(1950年)に発表された短編ですが
同じ村の警察署長が登場するので
一緒にまとめられたのでしょう。
郵便配達夫が立ち寄ったかどうかが
事件の鍵になるわけですけど
その解決は切ないものの
最後に示される
ささやかな結末によって
本作品も、ちゃんとした(?)
クリスマス・ストーリーに
仕上げられていることが分かります。
さらに巻末には
アガサ・クリスティーが書いた
アリンガムの追悼文が
収録されています。
クリスティーが
アリンガム作品の何を読んでいて
どこをどう評価していたかが分かる
好文献といえるでしょう。
このクリスティーの文章が
きっかけとなって
もっとアリンガムを読みたい!
という声が高まってくれると
嬉しいんですけれども。(^~^)