『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』

(1987/安原和見訳、河出文庫、2017.12.20)

 

ユーモアSF

『銀河ヒッチハイク・ガイド』(1979)の

作者として知られる

ダグラス・アダムスの書いた

ミステリの本邦初訳です。

 

『銀河ヒッチハイク・ガイド』の

評判のよろしいことは

耳にしており

そちらは未読ですが

その作者が書いたミステリ

ということで

手のを伸ばしてみた次第です。

 

現実世界を舞台にしてはいるものの

リアルでシリアスなミステリ

というよりは

ユーモアSFミステリ

というべき作品でした。

 

 

特に前半

ソフトウェア技術者のリチャードが

ある人物の亡霊と出くわすシーンは

抱腹絶倒で

電車の中で読んでいたのですけど

思わず笑いが洩れるのを

抑えるのに苦労した次第です。

 

端から見てると

ヘンな人に見えただろうなあ。σ(^_^;)

 

 

作者のアダムスは

モンティ・パイソンにも

関わっていたそうで

なるほど、さもありなん。

 

上記、抱腹絶倒したシーンは

モンティ・パイソンに見られるような

英国風スラップスティックのノリが

全開! という感じの場面でした。

 

他にも

フレンチ・レッスンに関する

お下劣なくすぐりなど

随所にそういうノリが満載ですので

そういうのがお好きな方には

チョーおススメです。

 

 

あと

奇人・変人が登場する作品や

ドラマが好きな方にも

チョーおススメ!

 

イギリス・ミステリの

奇人・変人ものって

そういうのが好きな人には

たまらなく魅力的ですよね。(^_^)

 

 

全体論的探偵というのは

「万物は根本的に

 相互に関係しあっているから、

 そこに目を向けなくてはならない」

という信念の持ち主である探偵役によって

「あらゆる問題の解答は、

 全体のパターンや網の目のうちに

 見てとれる」

と説明されています。(p.192)

 

別の箇所では

量子論的な科学的言説も

見られますので

なんだか新しげですけど

こういう考え方って

シャーロック・ホームズと

通底するものがあると思いますね。

 

『緋色の研究』の中に

ワトスンが読んだものとして

引用されている

ホームズが書いた雑誌記事の

次の箇所を思い出しました。

 

「たとえば一滴の水から

自分の見たことも聞いたこともない

大西洋やナイアガラの瀑布の存在を

推理しうる。同様に、

人生もまた一本の大きな鎖であり

その本質はたった一個の環から

知りうるのである」(中野康司・高田寛訳)

 

こうした類似点から

ダグラスの本作品も

イギリス・ミステリの伝統に

則った作品といえそうですが

最後に明らかになる真相は

かなりSF寄りなもの。

 

リアルな解決を期待する人は

怒りたくなるかもしれませんが

もとよりそういう作品なのだから

という頭を作って

読んでいただきたく。

 

本作品については

食わず嫌いはもったいないです。

 

 

コールリッジという詩人の詩が

重要な意味を持ってくるのですけど

「クーブラ・カーン」(1816)

という作品を書いている時に

客が訪ねてきたので

詩作を中断したところ

客が帰った頃には

詩想がすっかり失われていて

未完になってしまったという

有名なエピソードがあるそうです。

(と、訳者まえがきに紹介されています)

 

それが最後の最後になって

物語のプロットに活かされるあたりは

思わず膝を打つほどでした。

 

(よく分かんないけど

 よく分かんないなりにw)

 

 

その他、バッハの音楽が

重要な役割をはたす、というか

ソフトウェア技術者に

感銘を与えるあたり

さもありなんという感じでした。

 

1977年に打ち上げられた

宇宙船ボイジャーに

カール・リヒターや

グレン・グールドの演奏による

バッハを収めたレコードが

搭載されたという

エピソードを知っていると

より興趣が湧くかと思います。

 

そういう意味では

音楽ミステリ的要素もありますね。

(ちょっと強引かしらんw)

 

 

本作品には

なんと続編があるそうで

訳者あとがきによれば

河出文庫から続巻の予定だそうです。

 

続編って、どう考えたら

そんなものが書けるんだっ!

と気になることしきり。

 

また、オビにもある通り

このシリーズ、

英米ではドラマ化されていて

日本では Netflix で観られる

(観られた?)ようです。

 

そっちも気になるけど

とりあえず活字の方の続編を

期待したいかな、と。(^_^)

 

 

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