グザヴィエ=マリ・ボノ『狩人の手』

(2002/平岡敦訳、創元推理文庫、2017.11.30)

 

ギャングの抗争劇などが起こる

フランスはマルセイユを舞台に

女性を殺した上でバラバラにして

死体の一部を持ち帰り

現場にはネガ方式で作られた手型

(手の部分が白く抜けているもの、

カバー表紙のイラスト風なもの)を残す

連続殺人犯を追う名警部を描いた

警察捜査小説、

あえて一筆書きでまとめれば

こういう感じでしょうか。

 

 

先史時代の洞窟壁画が

作品を彩っており

それは面白かったんですけど

そうした先史時代の壁画と

事件現場に残された手型との関係、

犯人が何のためにそうしたのか

という理由の謎ときに

ミステリ的な面白さを

感じさせないあたり

ちょっと物足りない。

 

最後に

ミステリ的な意外性を

狙ったようなところもありますが

途中にあからさまに伏線が張られていて

読みなれている読者には

意外でも何でもないところも

物足りないところ。

 

 

それでも本作品は

ミステリ・ファンの交流サイト

ロンポル RomPol による

ロンポル賞というのを

受賞したそうです。

 

向こうの読者は

上に書いたようなことを

あまり気にしないのかもしれません。

 

ちなみに

ロンポルというのは

ロマン・ポリシェ roman policier の

略だそうな。

 


面白かったのは

フランスにおける警官の呼称が変わって

「アメリカ映画みたいに」(p.176)

主任警部(ディヴィジオネール)や

警部(アンスペクトゥール)をコマンダン

警部補(アンスペクトゥール)をリュートナンと

今では呼ぶんだ、と訂正する場面。

 

何度も出てくるんで

これはギャグのつもりかも。( ̄▽ ̄)

 

 

バロンとも呼ばれる

主役の刑事のイメージが

具体的に思い浮かばないのは

あまり映画などに親しんでいない

当方の責任でもありましょうか。

 

その警部がオペラ好きで

警部の心理を描くためにか

地の文でオペラの一節が

しばしば引用されます。

 

もっとも自分は

オペラに興味はないので

そこを面白く思ったわけでもなく

むしろ

ジョニー・アリディとか

ブラッサンスの名前が

ふつうに出てくるあたりを

面白いと思いました。

 

オペラ愛好家は

オペラしか聴かないと思っていた

と言われた主役の警部が

音楽というのは総体的なものだから

ジャズ・ロックだって聴くし

ストーンズのアルバムも全部持っている

と言った後で

「でもビートルズやブラッサンスの話は

やめてほしいな」(p.416)

と付け足す場面があります。

 

シャンソン歌手の

ジョルジュ・ブラッサンスは

向こうでも尊敬されているのかと

思っていたので

これはちょっと意外だったし

こういうところに

フランス本国における

音楽の受容のありようが垣間見えて

なかなか興味深かったり。

 

ま、ミステリとしての面白さより

風俗小説としての面白さを

楽しんだというわけで

それはそれで良かったかなと。

 

 

本作品は

グザヴィエ=マリ・ボノの

デビュー作。

 

本作が好評だったので

主役を務めた

ミシェル・ド・パルマ主任警部の

シリーズが書き継がれたようです。

 

シリーズの他の作品も

同じテイストなのかどうか

今後、訳されないと分かりませんけど

作者の実力を知る上では

このかなり後に発表されて

評判が良かったという

ノン・シリーズ作品を

読んでみたみたいものですね。

 

(サイコものの警察捜査小説には

うんざりしているということもあり)

 

 

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