『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』

(2014/山田久美子訳、創元推理文庫、2017.11.24)

 

アメリカ探偵作家クラブ賞

(エドガー賞)には

ジュヴナイル部門

というのが併設されています。

 

第1回受賞作は

フィリス・A・ホイットニーの

『のろわれた沼の秘密』(1960)で

往年のミステリ・ファンにはお馴染み

あかね書房から出ていた

『少年少女世界推理文学全集』第11巻として

刊行されています。

 

MWAではのちに

ヤングアダルト部門も創設され

第1回受賞作は

ソニア・レヴィティンの

Incident at Loring Groves(1988)

という作品ですけど

こちらは翻訳されてないようです。

 

ケイト・ミルフォードの

『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』

Greenglass House(2014)は

ジュヴナイル部門の受賞作になります。

 

本作品は他に

マリス・ドメスティック大会が主催する

アガサ賞の最優秀児童文学・

ヤングアダルト部門にも

ノミネートされたようですが

こちらは残念ながら

受賞を逸したようですね。

 

 

アメリカの架空の都市

ナグスピークを舞台に

雪に降りこめられたホテル

グリーングラス・ハウスで起きた

騒動を描いた作品です。

 

グリーングラス・ハウスは

密輸人が常連宿としているホテルで

ケーブルカーで登らなければならない

丘の上に建っています。

 

例年、クリスマスの時候だと

密輸人たちも泊まりにこないので

冬休みの宿題を終えた主人公のマイロは

家族とゆっくり過ごすクリスマスを

楽しみにしていたのですが

季節外れにも関わらず

次から次へと風変りな客が訪れてきます。

 

せっかくのクリスマスが

台無しになった上に

盗難事件が発生してしまい

マイロはRPGのキャラクターよろしく

臨時で来てもらった料理人の娘と共に

季節外れのお客たちの目的を探り

事件解決に乗り出すことになる

というお話です。

 

 

最初は

殺人事件が起きる

クローズド・サークルものかと

思ったのですが

ヤングアダルトではなく

ジュヴナイルなだけあって

殺人事件のような

残虐な事件は起きません。

 

だからといって

子どもたちが活躍する

単純な冒険譚かといえば

そうでもなく

客たちの目的が

次々と明らかになっていく展開には

推理の面白さを

充分に感じさせられました。

 

やっぱり欧米のジュヴナイルは

あなどれないと

あらためて思った次第です。

 

 

面白かったのは

無聊を慰めるためだと思わせて

お客の目的や正体を探るために

一人一人に物語を語らせる

という展開。

 

海外の小説には

登場人物の語り物をつなげて

ひとつの物語に仕上げる

という形式が

よく見られます。

 

作中に出てくる

重要なアイテムのひとつ

『語り部のおぼえ書き』

という本も

そういう形式を取っていますし

『語り手のおぼえ書き』自体

チャールズ・ディケンズの

「柊の宿」の構成を

お手本にしたものだと

作中人物の一人が語っています。

 

その物語を通して

個々のお客の事情が

明らかになっていくあたり

上手いものでした。

 

 

そして当然ながら

本書はクリスマス・ストーリーですので

(エラリー・クイーンによれば

 子どもが登場することと

 奇蹟が起きることが

 クリスマス・ストーリーの

 条件だそうですけど)

当然、奇蹟も起こります。

 

どんな奇蹟なのかは

読んでからのお楽しみ。

 

 

本作品はまた

クリスマスを背景とする

物語にふさわしく

慈愛に満ちた物語でもあります。

 

持っているのが

最もふさわしい人に

贈与することで

贈与された人が幸せな気持ちになり

そして贈与した人にお返しする

という行為が繰り返され

共感と互恵の輪が広がるというあたりは

実にクリスマスの精神に則っているし

アメリカらしい人間讃歌

人間への信頼というものが感じられて

ほっこりした気分になりますね。

 

 

クリスマス・シーズンは

とっくのとうに過ぎましたけど

大雪警報が出る中

幸い外出する予定もなく

家に引きこもっていましたので

ちょっと読んでみた次第です。

 

雪で苦労された方には

申し訳ないのですけど

雰囲気的にはぴったりでした。

 

 

ペタしてね