S・S・ヴァン・ダインの長編は

全部で12作ありますが

その内の10作が映像化されています。


最初に映画化された

『カナリヤ殺人事件』(1929年製作)は

ちょうど、サイレントからトーキーへの

移行期にあたりまして

最初、サイレントで作られてのち

音が入れられたとのことです。

 

その他はすべて最初から

トーキーで製作され

後年には

原作があるものだけでなく

ファイロ・ヴァンスという

キャラクターを借りただけの

オリジナル映画も作られました。

 

そのほとんどが今日

少なくとも日本では

ソフト化されておらず

簡単に観ることができません。

 

自分の知るかぎり

唯一、DVD化されていて

観る事のできるのが

パラマウントによる

4回目の映画化となった

『ケンネル殺人事件』です。

 

映画『ケンネル殺人事件』ジャケ表

(日立エンターメディックス

 HIM-A006、2012.12.12)

 

Hollywood Club[幻の洋画劇場]

というシリーズの1枚です。

 

自分の場合は、いつだったか

田舎に帰った際

近所の郊外型古本屋に

このシリーズが

中古で大量に出ているのを見つけて

ミステリやホラー、SFだけを選んで

まとめて購入したのですけど

そのとき出ていた中に幸いにも

『ケンネル』も含まれていたのでした。

 

 

製作は1933年で

監督はマイケル・カーティス。

 

主演のファイロ・ヴァンスはもちろん

これが当たり役になった

ウィリアム・パウエルです。

 

映画『ケンネル殺人事件』ジャケ裏

 

上掲ジャケ裏の

右側のスチールの中央が

パウエルです。

 

主役なのに

ジャケ表のスチールには

写っていないという。( ̄▽ ̄)

 

 

ウィリアム・パウエルは

本作品の翌年に

ダシール・ハメット原作の映画

『影なき男』(1934年製作)で

ニック・チャールズを演じ

こちらも当たり役になりました。

 

むしろそちらの方が

知られているかもしれません。

 

 

この時代の映画の常で

テンポは速いのですが

登場人物を整理して

原作のエッセンスを残しつつ

1時間ちょいの推理映画に

仕上げています。

 

もっともそれだけに、というか

洋画に詳しくない自分にとって

お馴染みの役者が

ほとんどいないこともあり

最初のうちは

顔の区別がつきにくく

冒頭の、被害者と容疑者の関係を

次から次に紹介するシークエンスなど

これ、誰?

みたいなことに

なりかねないのですけど。(^^ゞ

 

 

有名な密室トリックも

ちゃんと映像で再現されています。

 

こういうあたりは

映像化された

『本陣殺人事件』を観たときと

よく似た感想を持ちますね。

 

『本陣』の方が

ギミックが複雑なので

感銘の度合いという点では

比較にならないにせよ。

 

ちなみに『本陣』に匹敵するのは

『痴漢電車 聖子のお尻』(1984)

というピンク映画くらいでしょう。

 


今回、観直してみると

ヴァンスは犯行現場で

ちゃんと手袋をしていました。

 

原作を読んでいると

そういうことは

いっさい書かれていないので

牧歌的な印象を受けるのですが

映画の方はさすがに

ちゃんとしている。

 

新聞記者が現場のビルの入口に

押し寄せているという場面も

映画ならではです。

 

 

あと、これは誰かが

指摘していたかと思いますけど

謎解きの場面で

犯行現場とその近所のビルの

模型を使っているのも

見せる推理映画としては

印象的な場面になっています。

 

その一方で

模型を使った推理の後

真犯人に罠をかけて

自白させる展開は噴飯もので

拷問に近い印象すらあり

ちょっと感心しかねます。

 

 

そんなこんなで

B級映画という印象は

拭えませんけど

まあ、基本的に

娯楽映画ですからね。

 

ヴァン・ダインを読むような

オールド・ファンなら

動くファイロ・ヴァンスが

観られるだけでも

充分満足できる1本かと思います。

 

 

ちなみに今では

Amazon で

簡単に手に入るようです。

 

発売元が違うものも出ているようで

なんで『ケンネル』ばかり

と思わずにはいられません。

 

せめて

前にふれた『カナリヤ』と

ガイドブックなどに

よくスチールが載っている

『グリーン家の惨劇』なんかも

ソフト化してほしいところです。

 

 

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