A・R・ロング『死者はふたたび』

(1949/友田葉子訳、論創海外ミステリ、2017.9.30)

 

アメリア・レイノルズ・ロングは

去年の暮れに

『誰もがポオを読んでいた』(1944)

という作品で

初めて翻訳紹介された

アメリカの作家です。

 

A・R・ロング『誰もがポオを読んでいた』

(赤星美樹訳、論創海外ミステリ、2016.12.30)

 

『誰もがポオを……』は

エドガー・アラン・ポオの

直筆書簡をめぐって

大学で連続殺人が起こる

というお話でした。

 

ポオの作品に見立てた殺人が

印象的ではありましたけど

ストーリーやプロット自体は

誰もが犯人でありうる

といった体の

よくある犯人探し小説

という印象でした。

 

『死者はふたたび』は

それに続く

本邦初訳第2弾ですが

こちらは面白かったです。

 

 

水死したと思われていた

ハリウッド男優が

自宅に戻ってくる。

 

本物か偽物かを探るよう

依頼された私立探偵は

依頼人である未亡人と会った途端に

依頼を取り消されてしまいます。

 

探偵を雇うように勧めた

その未亡人を愛していた主治医が

改めて探偵を雇い直し

調査を進めていたところ

殺人事件が発生する

というお話です。

 

 

全体が200ページほどで

90ページ目にして

ようやく殺人事件が起きます。

 

それまでは

男優が本物か偽物かという謎で

ぐいぐいと読ませる。

 

男優にゴースト(代役)がいることが

早い内から明らかにされていて

それが替玉を務めているのではないか

という疑いが浮上するものの

決め手となる手がかりがなく

ああでもない、こうでもない

という推理が続いていくのですけど

その決められないところがいい。

 

そして

シンプルでありながら

凡庸ではない謎が

実にシンプルに解かれるので

なんでそれに気づかなかったのか

という読後感を味わえました。

 

そういう読後感がいちばん好みです。

 

シンプル・イズ・ベストなところは

ちょっと前に紹介した

エリス・ピーターズの

『雪と毒杯』にも

通ずるものがあるかもしれません。

 

 

上にも書いた通り

200ページほどしかありません。

 

400字詰め原稿用紙だと

380枚くらいに相当します。

 

翻訳ミステリは年々歳々

重厚長大化の傾向にありますけど

昔は、300枚を超せば

充分「長編」という印象がありました。

 

国内でいえば

江戸川乱歩賞なども

規定枚数は350〜550枚ですし

仁木悦子の『猫は知っていた』は

300枚ぐらいだったかと思います。

 

ロングの作品は

邦訳されたものに限らず

どれも短いようで

往年の、短めの長編を

偲ばせるところがありますね。

 

 

最近の重厚長大作品に慣れていると

書き込み不足のようにも

感じられるでしょうが

これ以上長くするとしたら

人物描写に費やすか

メインの謎とは無関係な

余計なエピソードを付け足すか

くらいなものでしょう。

 

本作品でいえば

私立探偵が同乗していた車内で

関係者が殺されるのですから

まず探偵が疑われるというのが

ありがちな展開ですけど

そういう寄り道はしません。

 

探偵の一人称なので

読者にとって

犯人でないことは明らかだし

そうなると

警官が探偵を疑って絡んでくる

というお約束の展開は

邪魔でしかないわけでして。

 

ですから、どことなく

シノプシスを読ませられている感じは

しないでもありませんけど

この作品のように

謎と狙いがクリアだと

そういう小説的装飾を排した

シンプルな作りの方が

かえって効果的かなと思います。

 

 

『誰もがポオを……』の場合

短い枚数の中で

事件が連続して起きるために

安っぽさが拭えませんでしたし

人物描写や心理描写が乏しいため

登場人物の行動に納得しがたいところも

感じられたような記憶がありますが

『死者はふたたび』は

そうした安っぽさや

心理的な不自然さとは無縁です。

 

というわけで

これはちょっとおすすめ。(^_^)b

 

 

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