(2015/長野きよみ訳、岩波書店、2016.9.15)
アガサ・クリスティーが自作で
被害者を殺すのに使った
14種類の毒薬を取り上げて
その発見の経緯や
社会における受容の歴史
人を死に至らしめるメカニズム
解毒法などに加え
現実の事件でどう使われたか
クリスティーの描写は妥当か否か
などといったことを
紹介した本です。
ちょっと喩えるなら
講談社ブルーバックみたいな内容
とでもいいましょうか。
イギリスのミステリが
現実の殺人事件に
インスパイアを受けている
ということは
以前こちらで紹介した
『イギリス風殺人事件の愉しみ方』にも
書かれていた通りです。
クリスティー作品も例外ではないことが
本書を読むと分かるのですが
逆に、というか、当然というか
クリスティー作品からインスパイアされて
毒殺を行なおうとした愚か者も
何人かいたようです。
そういうことを
きちんと紹介されているのが
面白かったですね。
現実に起きた毒殺事件の例として
日本の地下鉄サリン事件にも
言及されています。
日本でも他に
トリカブト保険金殺人事件とか
若山毒物カレー事件など
有名な事件はありますが
やっぱり世界的に知られているのは
サリン事件のようですね。
トリカブトの項目では
フグの毒として有名な
テトロドトキシンとの併用で
珍しい症例を示した
1992年に起きた日本の事件が
紹介されていますけど。
こちらは寡聞にして知りませんでしたが
『実験薬ジャーナル』に
レポートされたのだとか。
どのようにして
人を死に至らしめるのか、
どのような事件が実際に起きたのか
ということを
詳しく書いてしまうと
真似をする人間が出てくるだろう
という批判が出てきそうです。
クリスティーの作品
例えば『蒼ざめた馬』なんかも
同様の批判を受けたようですけど
クリスティーの描写が正確だったからこそ
防げた事例もあったようです。
それが本書に浴びせられそうな
先のような批判に対する
答にもなるでしょう。
隠すより顕わした方が
長い目で見れば全体の利益になる
という考え方ですね。
もっとも
本書がクリスティーの作品ほど
一般的な読者を得られなければ
(悪意を持った読者しか得られなければ)
反社会的な一冊に
堕しかねないのですけれども。( ̄▽ ̄)
ちなみに
本書でいちばん
びっくりさせられたことは
岩波書店から
刊行されたことでしょうか(笑)
ジョン・ル・カレの
スパイ小説を出しているくらいだから
驚くべきことでも
ないのかもしれませんが。
電車の中とかだと
なぜか気が散って読めず
自宅だと
科学的な記述は適当に流して
すいすい読めました。
なぜかは分かりません(苦笑)
いずれにせよ
そこそこ、というか
そこそこ以上には面白かったです。
取り上げられている
クリスティー作品のいくつかを
読み直したくなりました。