
(エオリアンレコード AEO-501、1991.10.10)
発売月日は Amazon のデータに拠ります。
小川洋子の小説
『やさしい訴え』(1996)の
82ページにあげられていた
『チェンバロによるアリア集
シフォーチの別れ』。
誰のCDだろうと思って
検索をかけてみたら
武久源造の盤であることが
すぐに分かりました。
かなり初期の盤で
もしかしたら
武久のデビュー盤かもしれません。
それでも Amazon はもとより
いろいろなショップに
まだ、在庫がありましたが
他のCDとの組み合わせによる
割引セール中だったことで
いちばん安い値付けだった
HMVのネットショップで購入。
本日、届いたばかりです。(*^.^*)
表題の楽曲は
イギリス・バロック時代の作曲家
ヘンリー・パーセルの曲です。
「シフォーチ」というのは
ライナーに載っている
武久自身による解説によると
イタリア人カストラートの通称で
彼がイギリスを去る際に
親交があったパーセルが
書いたもののようです。
カストラートというのは
去勢した男性歌手のことで
実在したカストラートである
ファリネリをモデルにした映画が
公開されたことがありますから
御存知の方も
いらっしゃるかもしれません。
本CDには
上のパーセルによる楽曲を中心に
オランダからはスヴェーリンク
ドイツからはバッハとベーム
フランスからはラモーの曲が選ばれ
4つの楽器を使い分けて演奏されています。
「チェンバロによるアリア集」と
副題はついてますけど
セレクトはかなり恣意的で
ライナーの言葉を借りるなら
「哀愁と親しみやすさ」をたたえた
小品集といったところでしょうか。
パーセルの楽曲は8曲
(数えようによっては12曲)
収められており
そのうちの、ニ短調のロンドは
ブリテンの『青少年のための管弦楽入門』で
使われたメロディーです。
もともとは
劇音楽『アブデラザール』内の舞踊曲で
中学校の音楽鑑賞の時間に
聴かされた記憶がありますけど
(ブリテンの方を聴かされたのかも)
チェンバロ・ヴァージョンがあるとは
知りませんでした。
ラモーは2曲収録されていて
その内の1曲は、お馴染み
「やさしい訴え」ですが
こちらのCDでは
「恋のなげき」と訳されています。
ライナーによれば
1724年に刊行されたクラヴサン曲集が
1731年に再版された際
一部、改定されたそうで
ここではその改定稿を
演奏しているのだとか。
改定稿があるとは知りませんで
確かに聴いてみると
他の演奏家のものとは
ちょっとだけ違っていて、びっくり。
バッハからは、ずばり
「アリア ト長調」が収録されていますが
これは『ゴルトベルク変奏曲』の
最初と最後に演奏されるアリアと同曲です。
「シンフォニア 第5番 変ホ長調」も
『インベンションとシンフォニア』に
収録されているもの。
あと1曲
マルチェルロのオーボエ協奏曲に基づく
チェンバロ独奏による協奏曲の
第2楽章(アダージョ楽章)が
入っています。
これは好きな曲でして
当ブログでも以前
グレン・グールドの演奏と
曽根麻矢子の演奏を
紹介したことがありますけど
好きなだけに
全曲通しで聴いてみたかったなあ。
使用楽器は4台で
そのうちのひとつは
クラヴィコードです。
音色がかなり違いますし
音量もかなり小さい。
個人的には
チェンバロの演奏の中に
クラヴィコードの演奏を混ぜる構成って
音量が極端に違うだけに
あまり好きではないのですけど。
使用されている
3種類のチェンバロのうち
ひとつは
クーシェのチェンバロです。
小説『やさしい訴え』の最後で
完成したチェンバロが
クーシェが1645年に作った楽器の
図面に基づくレプリカ
という設定でした。
武久の使用している楽器は
1680年の楽器に基づく
レプリカのようですが
同じクーシェですので
小説中で流れた音を
偲ぶよすがになるかもしれません。
といっても
クーシェで演奏されているのは
スヴェーリンクの
「涙のパヴァーヌ」1曲だけなので
他の楽器との音色の違いを比較しようにも
少なすぎるかもしれませんけど。
で、本CDを聴いたことで
小説『やさしい訴え』に出てくる
チェンバロ曲が
誰の演奏を基にしているのか
だいたいの見当がつきました。
それについては
また次の機会にでも。
