
(1998/岡真知子訳、扶桑社ミステリー、1999.8.30)
ちょっと必要があって
読んでおこうと思い
本棚を探したのですが
確かに買っているはずなのに
出てきませんで
しょうがなく古本で買い直しました。
上に掲げた写真の本に
オビが付いてないのは
ネットで不見転で買ったためです。
歴史上の有名人が
探偵役を務める趣向のミステリは
自分が子どもの頃だと
シオドー・マシスンの短編集
『名探偵群像』(1960)くらいしか
見かけませんでしたけど
現在では、内外を問わず
たくさん書かれています。
もちろん
シャーロック・ホームズの生みの親
コナン・ドイルが
探偵役を務めるミステリも
これまでに何冊か書かれています。
ところが
ルイス・キャロルこと
チャールズ・ラトウィッジ・ドジスンが
探偵役を務めるミステリというのは
少なくとも小説ジャンルでは
寡聞にして聞いたことがありませんでした。
そのルイス・キャロルが登場し
コナン・ドイルとともに
事件の解決に尽力するという
珍しい組み合わせの小説が
今回、紹介する
『名探偵ドジスン氏
マーベリー嬢失踪事件』です。
時代は1885年。
行楽地ブライトンの駅で
かつての教え子である
国会議員マーベリー卿の娘
アリシアを迎えにきたドジスンは
彼女が何者かに連れ去られたことを知ります。
ちょうどそこへ
ハネムーンで訪れたのが
ドイル夫妻で
駅で混乱するドジスン氏を介抱し
事件に巻き込まれることになる
というお話です。
ドジスンとドイルの
探索行を描く章が中心ですが
失踪したアリシアの視点からなる章も
挟まれていくので
事件の裏側は
最初から明かされているようなものです。
失踪事件に絡んで
人死にが2件、起きますが
読み慣れた読者なら
プロットのポイントは
すぐ見当がつくでしょう。
基本的に謎を解くのは
ドジスンですけど
推理の面白さが
特に感じられるわけでもない。
解決の意外性とか
驚天動地のトリックとか
そういうものを期待すると
裏切られることになるでしょう。
自分は
論理的推理やトリックを楽しませる
謎解きもののミステリだと思って
読み始めたものですから
最初はあまりノレませんでした。
プロットのユルさもさることながら
キャロルもドイルも
どうもこちらが抱いている
当人たちのイメージとは
合わない感じもしましたし。
まんが原作の実写化作品を
観たときのとまどいに
似てるかもしれませんね。
ですから、そうですね
キャロルとドイルという
文学史上の二大スター夢の共演と
誘拐されたアリシアの冒険を楽しむ
ビクトリア朝を舞台とする時代小説
というつもりで読めば
失望しないですむかと思います。
実際
アリシアの冒険を描いた章になると
作者の筆も
活き活きとしている感じがしますし。
ちょっと面白かったのは
クライマックス近くで
コミック・オペラで有名な
アーサー・サリヴァン卿が
ブライトンの聖歌隊を指揮するために
登場すること。(p.364)
残念ながら台詞はありません。
あと
ヨハネス・ブラームスの交響曲が
「超現代的」なものとして
受けとられていると
書かれているところ。(p.229)
なんといっても
130年前の
イギリスの行楽地が
舞台ですからね。
ひとつ気になったのは
ロンドン警視庁のマクレイ警部が
ドジスンに対して
「まさか探偵小説に出てくるような、
ばかげた場面をやろうと
しているんじゃないでしょうね」(p.355)
と言う場面。
「ばかげた場面」というのは
関係者を集めて謎解きをする場面
かと思われます。
1885年当時
探偵小説というジャンルは
まだ成熟していませんので
(何といってもホームズ登場以前ですから)
こんな台詞を吐く警察関係者が
いるとは思えないのですけど……。
文庫本のカバー裏には
原書の書影が掲げられてますが
あからさまに
アリスをウリにしたジャケット。

キワモノっぽい感じが
プンプンしますなあ(苦笑)
