『EQ』1991年11月号
(1939?/長島良三・藤崎京子訳、
 『EQ』1991年11月号
 14巻6号、通巻84号)

ジョルジュ・シムノンは
メグレ・シリーズをいったん中断したあと
第二次大戦中に復活させました。

その時期の長編6作は
第2期シリーズといわれていて
そのうちの5作が
80年代から90年代にかけて
雑誌『EQ』に
次々と訳されましたが
それらは同誌に載ったまま
一度も単行本化はもちろん
文庫化もされずに
今日に至っています。

以前紹介した
「メグレと謎のピクピュス」
その第2期シリーズの一編でしたが
今回紹介する
「メグレと死んだセシール」も
そのひとつで
第2期の巻頭を飾る一編です。


セシールというのは
パリ警視庁にメグレを訪ねてきて
何者かがアパートに
深夜ひそかに侵入しているので
突き止めてほしいと陳情することを
日課のようにしている
女性の名前です。

その日も
セシールが訪ねてきていましたが
多忙を理由に
なかなか面会せずにいたメグレ。
気づいてみると
いつの間にかセシールは
姿を消していました。

気になったメグレが
セシールのアパートを訪ねると
そこでセシールの叔母の
絞殺死体を発見します。

そしてセシールもまた
司法警察局と
裁判所や犯罪記録保管所をつなぐ
廊下の途中にある
掃除用具室で
絞殺死体となって発見されました。

セシールの訴えを
無下に退けていたことに
引け目を感じたメグレは
この二重殺人事件の調査に専心する
というお話です。


全体が三部構成で
第三部ではアメリカから
メグレの捜査を学ぶために
刑事が研修に訪れていて
その刑事に自分の捜査法を語りながら
捜査を進めるのが
ちょっと面白いです。

以前にもこんなことがあった気がする
とかメグレは思ってますけど
その「以前」が描かれた作品が
あるのかどうかは
このシリーズの良い読者ではない自分には
残念ながら分かりません。


そして
これはびっくりというか
意外な拾いものというか
最後に明かされる真相は
近年の欧米のミステリと比べても
遜色のない出来栄えでした。

いわゆる本格ミステリとして読んでも
充分通用するプロットだと思います。

メグレ・シリーズは
欧米型の謎解きミステリとは
違うところにその魅力がある
と思われている節がありますし
自分もそう思っていましたけど
今回の作品は
現代ミステリに慣れた
謎解きミステリ・ファンが読んでも
唸らされるものだと思った次第です。

現代のミステリ
特にイギリスのミステリは
メグレ・シリーズの影響を
受けているところも
なきにしもあらずと
感じさせる面があり
それが『死んだセシール』を
現代ミステリと比べても
遜色がない作品のような印象を
覚えさせるのかも知れません。


本作品は
刊行後しばらくして
映画化されました。

日本では劇場未公開ですが
昨年に出た
『フィルム・ノワール
 ベスト・コレクション
 フランス映画篇 DVD-BOX』vol.2

『フィルム・ノワール フランス映画篇』DVD-BOX2
(ブロードウェイ BWDM-1057、2015.12.4)

というBOXに
「セシールは死んだ」という邦題で
収録されました。

「読んでから観る」人間の自分としては
実をいえばそれを観るために
まずは原作を、というわけで
持っていた古雑誌を
引っぱりだしてきた次第なのでした。


なお、本作のDVDは単品でも買えます。

フィルム・ノワール ベスト・コレクション フランス映画篇
セシールは死んだ [DVD]/ビデオメーカー

¥3,024
Amazon.co.jp

ジャケットに使われている
スチールに写っているのが
セシールです。

映画の方の感想は
また記事を改めて書くことにします。


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