『江戸川乱歩異人館』12
(集英社ヤングジャンプ コミックス、2015.8.24)

『陰獣』に基づく「影男」の続きと
「夢遊病者の死」に基づく「夢男」
「赤い部屋」に基づく「倦男(うみおとこ)」
そして『孤島の鬼』に基づく
「慾男(よくおとこ)」の途中までが
収録されています。


乱歩の原作『陰獣』は
結末を曖昧にするのは良くない
という批評を受けて
一度、結末部分を
改稿したことがあります。

そういう批評が出たのは
謎解きミステリは
きっちりと結末を付けなければならない
剰余が出るのは良くないという
考え方に由来するのでしたが
今回のコミカライズでは
オリジナルの結末を
さらに怪談風にアレンジしています。

それがちょっと面白かったのと
あとひとつ、秀逸だと思ったのは
寒川が天井裏から静子の頭部を見たとき
頭のてっぺんに埃があるのに気付く
という場面の処理です。

原作では単に
人間というのは上からの視線に対して
スキだらけという感慨としてしか
描かれていなかったように記憶しますが
コミカライズの方はそれを
ある事柄の伏線として処理していました。

これには脱帽でしたね。


「夢遊病者の死」は
主人公の彦太郎が
何でも人のせいにする
世を拗ねた男として描かれていて
乱歩の原作では
ここまでの拗ね者として
描かれていなかったのでは
ないかしらん。

そういうふうに描くことで
かなり現代的な話に
なったような気がします。


「倦男」は
ラストで大胆なアレンジが
施されていますが
よくよく考えてみると
最後に倦男を追いつめた人物は
なぜ倦男の犯行に気づき得たのか。

鉄道事故の真相は
気づき得るかもしれませんが
他の事件は
無理ではないでしょうか。

その無理を押し通してしまうあたりが
山口版コミカライズの
真骨頂かもしれませんけど。

以前、コミカライズされた
「指環」に基づく
「曲男(まがりおとこ)」のキャラも
ちらりと顔見せ。


「慾男」は
主要登場人物である
箕浦と諸戸、深山木が同級生で
今でも交流があるという
出だしからして大胆なアレンジ。

箕浦の婚約者である初代は登場せず
初代殺しもカット。

最初の事件は
いきなりの深山木殺しで
これも別に
衆人環視の殺人という
不可能犯罪では
ありませんでした。

別に、例の設定から
自粛したわけではないでしょうが
ちょっと残念。

そんなふうにカットしているので
連載第二回の最後で
もう、島に向かうことになります。

島での出来事は
次巻に続くといった態ですが
深山木が、自分に何かあったら
明智小五郎に知らせてほしい
と言ってましたから
もしかしたら
明智が登場するよう
アレンジされてるかもしれません。

それにしても
コミカライズのタイトルロールである
「慾男」とは誰を指すのか。

そちらも気になるところです。


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