『伊藤博文邸の怪事件』
(光文社、2013年10月20日発行)

時は1884(明治17)年。
伊藤博文の許に
書生となって住み込むことになった
杉山潤之助は
その邸で殺人事件に遭遇。

同じ頃、やはり書生として
邸に住み込むことになった
月輪(がちりん)龍太郎と共に
その謎解きに挑む……という
明治時代を舞台とした
歴史ミステリです。


同じ著者によって昨年刊行され
そのトリックが話題となっている
『黒龍荘の惨劇』を読むにあたり
シリーズ第1作である本作品にも
眼に通しておいた方が
いいかなあと思って
手にとった次第です。

まあ、今ごろで恐縮なんですが。f^_^;


続けて『黒龍荘の惨劇』を読んだら
本作品を読まなくても差支えないように
いちおう出来ていましたが
やっぱり、読んで良かったです。

なぜ良かったのか、
それを詳しく説明すると
トリックやネタに関わるので
差し障りがあるのですが……


いわゆる「小説」として見た場合
本作品の方が『黒龍荘』よりも
出来は良いかと思いました。

語り手であり主人公である杉山潤之助の
伊藤博文の娘に対する
想いなども描かれていて
ちょっといいですね。


1889(明治21)年の
大日本帝国憲法が発布された日を
プロローグとしているのも
効果的でした。

当時の日本はまだ憲法を持たず
伊藤博文は
憲法調査のためのヨーロッパ旅行から
帰ってきたばかりの頃でした。

その伊藤の憲法観が
事件と密接に結びついています。

伊藤の憲法観には
立憲主義的発想が感じられないのが
読んでいて気になりましたけど
作者的には
現在の日本国憲法をふまえて
憲法論議をするつもりは
ないのでしょう。

あくまでも小説の題材に留まっていて
それは小説の結構からしたら
しょうがないのですが
そこが個人的には
物足りないといえば
物足りなかったですね。


本作品は、
作者が古本屋から入手した和装本を
現代語に訳して
ミステリとして読めるよう編集した
という設定(枠組)の下に
書かれています。

その設定を反映して
書籍のカバーを外すと
和本のような装幀になっています。

『伊藤博文邸の怪事件』本体装幀

綴じの部分も角背で和本風。

『伊藤博文邸の怪事件』背表紙

これは『黒龍荘の惨劇』でも
踏襲されています。

カバーを展開すると一枚絵に。

『伊藤博文邸の怪事件』カバー

なかなか凝ってて、おシャレです。

こういう工夫は
電子書籍ではできますまい。


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