『なぞの怪盗セイント』(鶴書房盛光社版)
(常盤新平訳、鶴書房盛光社、19—)

鶴書房盛光社
のちには鶴書房から刊行された
ミステリ・ベストセラーズの
第3巻目です。

こちらは昔
小学生か中学生のころ
図書館でか友人からか
借りて読みました。


怪盗セイントというと
馴染みが薄いかもしれませんが
1997年に公開された
アメリカ映画『セイント』の主人公
といえば「ああ、あれか」と
思い出す人もいるかも知れません。

本名(?)をサイモン・テンプラーといい
犯行現場にはいつも天使の輪っかを載せた
棒人間のイラストを残していくことから
「聖者(セイント)」と呼ばれる怪盗で
悪人の上前をはねることから
現代のロビン・フッドとして名を馳せている
シリーズ・クリミナルです。


1960年代には
ロジャー・ムーア主演で
テレビ・シリーズにもなっており
日本では60年代後半に
『セイント/天国野郎』というタイトルで
放送されていました。

テレビ版についてはこちら↓が詳しいです。

http://teleplay.seesaa.net/article/1288646.html

テレビで放映されていたからなのか
かつての児童向けミステリ叢書には
セイント・シリーズを収録することが
割と多かったですね。

鶴書房盛光社の
ミステリ・ベストセラーズの基になった
盛光社のジュニア・ミステリ・ブックスは
1966年に出ており
まさに本邦でのテレビ放映時期と重なっています。

ただ、子どもの頃
『セイント/天国野郎』にせよ
『テンプラーの華麗な冒険』にせよ
観た記憶はありません。

地元局が
それらのキー局の
系列ではなかったため
そもそも観られなかったのだと思います。


まあ、それはともかく
ミステリ・ベストセラーズで読んで以来
原作は何だろうと
気になっていたのですが
膨大な(というほどでもないけどw)
邦訳にあたる根性もなく
そのままにしていたのでした。

ところが最近になって
ふと検索してみたところ
案外簡単に分かったのでした。

ネット時代の恩恵というものですね。


実はなんと Wikipedia にも
レスリー・チャータリスの項目があり
そこでは表題作の原題が The High Fence 、
「美少女と宝石」の原題が Dawn と
なってます。

それより先に、
昨年こちらでも何度か紹介した
翻訳作品集成(Japanese Translation List)ameqlist
ミステリー・推理小説データベース Aga-Search
チェックしてみたところ
High Fence は
「セイントと謎の故買人」というタイトルで
『ハヤカワミステリマガジン』の1966年11月号に
樫村剛(深町真理子)訳で
掲載されていることが分かりました。

『ミステリマガジン』1966年11月号

普通の故買屋よりも
高い値段で買い取ってくれることから
ハイ・フェンスと呼ばれる
謎の故買人の正体をめぐって
(フェンスは故買人を意味する隠語)
サイモン・テンプラーと
そのライバルである
スコットランド・ヤードの
ティール主任警部
そしてプライク下級警部とが
しのぎを削るというお話です。

ミステリ・ベストセラーズの
関英雄の解説を読むと
ハイ・フェンスの正体が
容易に想像がついてしまうのは
困りものですけど
ミステリを読みなれた読者なら
物語のパターンから
おそらくは初読であっても
簡単に見当がつくでしょう。

その意味では
今となっては少々古めかしい
ともいえますし
展開がアクションもの
ないしスリラーの王道パターンなので
今でも通用するともいえるでしょう。


今、大人向けの訳で読むと
やっぱり児童向けではカットした
細部の描写や語り口が面白い。

セイントとティールが
初めて顔を会わす場面で

 この二人のあいだの確執の原因とか、
 累積した数々の経緯とかに
 不案内なものにとっては
 (それほど無知な輩が
 かりにもこの文明社会に
 存在すると仮定してだが)
 (『ミステリマガジン』1966.11/p.145)

と書いているあたり
作者チャータリスの
ちょっと自意識過剰なユーモアが感じられて
面白いですね。

プライク警部については
その色男ぶりが
徹底的にからかわれていますが
(その片鱗は児童向け翻訳にも感じられます)
その容姿を説明したあとで
「紳士を探偵にするという
 あの古典的な試みの創始者ならずとも、
 従来の観念を打破する
 新しい型の警官として
 挙げたくなっただろう」(同/p.140)
と書いている個所の
「古典的な試みの創始者」って
ドロシー・L・セイヤーズかしらん
と考えてみたりできるのも楽しい。

The High Fence を収録した
中編集 The Saint Goes On が刊行されたのは
1934年のことですから
同じ年にデビューした
ナイオ・マーシュではなく
1923年デビューのセイヤーズだと考えるのが
妥当なところだと思います。


そういう楽しみ方はできるものの
やっぱり「セイントと謎の故買人」は
今となっては平凡と
いわざるを得ないところもあり。

それよりも
同時収録の「美少女と宝石」が
昔、読んだとき同様
妙な話として印象に残ります。

例によって長くなったので
こちらの作品については
次回ということにいたします。


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