1月11日(日)と12日(月)の
2夜連続で放送された
三谷幸喜脚本のフジテレビ版
『オリエント急行殺人事件』ですが
自分は仕事の都合で
ふた晩とも録画しておいて
14日(水)にまとめて一気に観ました。
そしたら前後編合わせて
5時間を超そうかというくらいの大作だは
思いもよらず
(例によって、事前チェックせず、なので)
観終わったときは
疲れてへろへろになっちゃいました。(@_@)
あれは一気に観るもんじゃないですね。
それにしても、上に書いた通り
放送日以外は
たいした事前チェックもしなかったので
放送日前日に
『オリエント急行殺人事件』という検索語で
当ブログのアクセス数が増えたのは
なぜだろうと思って
はっと気づいたという(苦笑)
もう少しで録画し損なうところでした。
以下、2夜合わせての感想となります。
第1夜は謎解きスタイルなので
極力、真相が分からないよう
ボカして書きますが
第2夜にも言及するとなると
微妙な記述になる場合もありますので
未視聴の方は、その点お含みおきください。
漏れ聞いたところでは
第2夜はちょっと……
という感想もあるようですが
自分は退屈せずに観通せました。
第2夜というのは
ポワロが真相を指摘した後
真犯人の視点から
事件に至る経過を語る
というものでしたが
それはつまり
クリスティーの原作が持っている
プロット上の弱点や説明不足部分を
補完する作業のように
感じられたからです。
そのプロット上の弱点や
説明不足部分とは何か、を書くと
ネタバレになりますから
これ以上は書けないのですけど。f^_^
これもネタバレすれすれの話ですが
どこかで誰かも書いてましたけど
ああいうふうに描くスタイルは
『忠臣蔵』を髣髴させます。
ドラマ中でも
ある人物が大石内蔵助に喩えられる場面が
ありました。
三谷幸喜も
『忠臣蔵』を連想した時点で
第2夜を書ける、という感触を
持ったのではないかと想像されます。
ポワロが乗り合わせたことで
計画に狂いが生じかけ
雪のために列車が止まったことで
さらに計画に狂いが生じる。
そのために犯人側が必死に対策を立て
何とか計画を進行させるという
裏のドラマの流れが
実にサスペンスフルだし
現代的だと思います。
だから後半は観てて飽きないのですね。
その指揮をとるのが誰なのか
それは第1夜のネタバレになるので
いえませんけど
映画とは別のキャラクターが
クローズアップされていて
それはなかなか良かったです。
ただ、実際の殺人の場面は
やっぱり1974年の映画を髣髴させて
シドニー・ルメット監督の演出を
踏襲している印象を受けました。
あえて、かもしれないし
リスペクトのつもりかもしれませんけど。
その伝でいえば
今回のドラマ化の第1夜めは
74年版映画のリメイク
といってもいいような
出来でした。
三谷幸喜版の第1夜は
映画に忠実である以上に
原作に忠実という
印象を受けましたが
そうはいっても
シドニー・ルメットの演出から
逃れられないようなところが
感じられたのも事実なんですよね。
オリエント急行(東洋急行)に乗り込む前の
アーバスナット大佐と
デベナムのやりとりなんかは
映画を踏襲している感じでしたし
オリエント急行の乗客が
次々とホームにやってくるシーンもそう。
ある写真をハードマンに見せて
彼を泣き崩れさせるあたりもそうで
ちなみに原作には
そういうシーンはありません。
ルメットの映画が
いかに完成度の高いものかを
証明している感じがされました。
また、野村萬斎演じるポワロも
アルバート・フィニーの影響なのか
昨今の風潮なのか
デフォルメし過ぎで
アクが強すぎる感じがします。
今回、読み直して分かったのですが
原作のポワロは
もっと控えめなキャラクターでした。
原作だと、
控えめなんだけど
獲物を追いつめたら牙をむく
というタイプなんですよね。
ポワロがハードマンに
「あなたは神か」と言われて
「いいえ、名探偵です」と
答える場面がありましたが
あそこって従来なら
「あなたは悪魔か」という
言い回しになるような気がします。
そこで「神か」と言うのを聞いて
昨今の日本の本格ミステリ界で議論になっている
「後期クイーン的問題」に絡む論題などを
ふと思い出したりしました。
ただ、第1部が
シドニー・ルメット調であればあるほど
第2部のキャラの崩れ方が目立つというか。
第1部では
みんな、そこそこシリアスだったのに
第2部では
ギャグっぽいキャラになったりしてて
そのギャップを楽しめるかどうかが
第2部を観通せるかどうかの
ポイントにもなっているような気がします。
特にアンドレニ伯爵夫人を演じた杏は
第2部では、
おきゃんな現代娘になってたし
草笛光子が演じたドラゴミロフ公爵夫人も
第2部では
せっかちなお婆さんみたいになってました。
松嶋菜々子も、あるシーンで
「何で燃やすかなあ」と
一瞬、現代人になってたし(笑)
あの「何で燃やすかなあ」というシーンは
そのシーン自体は好きなのですけど
それまでのドラマのトーンからすると
違和感があります。
とはいえ、見方を変えれば
そういうのって、舞台の演技の感覚に近い。
舞台で役者のアドリブがあって
お客さんにワッとウケるようなノリを
そのままテレビでもやってみた感じ
とでもいいましょうか。
舞台で、アドリブで
ギャグを言ったりやったりしても
観客は面白く思ってスルーするんですが
テレビ・ドラマの場合は
どうなんでしょうね。
そこでスルーできるかどうか
ウケるかどうかが
評価のひとつの分かれ目でしょう。
ところで今回
原作の翻訳を読み直したのは
三谷幸喜版の登場人物が
どれくらい原作の名前をもじっているかを
確認するためでもありました。
読んでいるうちに気づいたのですが
アームストロング大佐の名前は
アーバスナット大佐にはトビーと言われ(p.158)
アンドレニ伯爵夫人にはロバートと呼ばれ(p.269)
謎解きの場面(p.315)では
義理の母だった女性にジョンと呼ばれ
アーバスナット大佐にもジョンと呼ばれる
という不統一がありました。
(カッコ内は創元推理文庫旧版のページです)
トビーというのは
ロバートの愛称であるボビーの
誤植ではないかと思ったものの
手許にあった
ハヤカワ・ミステリ文庫版の中村能三訳でも
該当ページでは「トビー」になってます。
トビーはトバイアスの愛称なので
全部が正しいとすると
ジョン・ロバート・トバイアス・アームストロング
という名前になっちゃうんですけど(苦笑)
三谷版がベースにしている
クリスティー文庫版の
山本やよい訳では
どうなってるんでしょう?
三谷版で剛力大佐となっていたのは
某有名女優にあやかったわけではなく(笑)
アームストロングをもじった
実に巧い移し替えなのです。
そういうところも
楽しみどころのひとつなわけで
Wikipedia の項目には
原作の誰に相当するかが書かれてますが
全部あげきれてないようなので
参考までに以下にあげておきましょう。
Wikipedia の項目だと
結果的にネタバレになってるところもありますが
ここではそうならないように配慮しました。
以下は、三谷版人名(役者名)原作人名の順で
原作人名表記は創元推理文庫版
(長沼弘毅版)に拠ります。
●捜査側の人々
勝呂武尊(野村萬斎)エルキュール・ポワロ
莫(高橋克実)ブーク
須田(笹野高史)コンスタンチン博士
●被害者側の人々
藤堂修(佐藤浩市)サミュエル・エドワード・ラチェット
幕内平太(二宮和也)ヘクター・ウラード・マックィン
益田悦夫(小林 隆)エドワード・ヘンリー・マスターマン
●容疑者側の人々
馬場舞子(松嶋菜々子)メアリー・ハーミオン・デベナム
能登 厳大佐(沢村一樹)アーバスナット大佐
安藤良子(杏)へレナ・マリア・アンドレニ
安藤伯爵(玉木 宏)ロドルフ・アンドレニ伯爵
轟なつ侯爵夫人(草笛光子)ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人
昼出川澄子(青木さやか)ヒルデガルデ・シュミット
羽鳥典子(富司純子)カロリン・マーサ・ハッバード
呉田その子(八木亜希子)グレタ・オールソン
羽佐間才助(池松壮亮)サイラス・ベスマン・ハードマン
保土田民雄(藤本隆宏)アントニオ・フォスカレリ
三木武一(西田敏行)ピエール・ミシェル
●アームストロング事件の関係者たち
剛力曾根子(吉瀬美智子)ソニア・アームストロング
剛力大佐(石丸幹二)ジョン・ロバート・アームストロング
剛力聖子(小林星蘭)デイジー・アームストロング
小百合(黒木 華)シュザンヌ
笠原健三、通称・笠健(?)カセッチ
淡島八千代(?)リンダ・アーデン
轟侯爵夫人の名前は
「夏」とか「奈津」というふうに
漢字が当てられるのかもしれませんが
現時点では不詳です。
アーバスナット(アーバスノット)を
「能登」とするのは
分かりやすかったですけど
「幕内」が「幕」の「内」で
マックィン(マックイーン)かあ
と気づいたときには
大ウケしました。
ヒルデガルドを「昼出川」とするのは
ちょっと苦しいと思いますけどね(笑)
以上、2夜一緒にして感想を書いたので
長くなってしまい、深謝です。

2夜連続で放送された
三谷幸喜脚本のフジテレビ版
『オリエント急行殺人事件』ですが
自分は仕事の都合で
ふた晩とも録画しておいて
14日(水)にまとめて一気に観ました。
そしたら前後編合わせて
5時間を超そうかというくらいの大作だは
思いもよらず
(例によって、事前チェックせず、なので)
観終わったときは
疲れてへろへろになっちゃいました。(@_@)
あれは一気に観るもんじゃないですね。
それにしても、上に書いた通り
放送日以外は
たいした事前チェックもしなかったので
放送日前日に
『オリエント急行殺人事件』という検索語で
当ブログのアクセス数が増えたのは
なぜだろうと思って
はっと気づいたという(苦笑)
もう少しで録画し損なうところでした。
以下、2夜合わせての感想となります。
第1夜は謎解きスタイルなので
極力、真相が分からないよう
ボカして書きますが
第2夜にも言及するとなると
微妙な記述になる場合もありますので
未視聴の方は、その点お含みおきください。
漏れ聞いたところでは
第2夜はちょっと……
という感想もあるようですが
自分は退屈せずに観通せました。
第2夜というのは
ポワロが真相を指摘した後
真犯人の視点から
事件に至る経過を語る
というものでしたが
それはつまり
クリスティーの原作が持っている
プロット上の弱点や説明不足部分を
補完する作業のように
感じられたからです。
そのプロット上の弱点や
説明不足部分とは何か、を書くと
ネタバレになりますから
これ以上は書けないのですけど。f^_^
これもネタバレすれすれの話ですが
どこかで誰かも書いてましたけど
ああいうふうに描くスタイルは
『忠臣蔵』を髣髴させます。
ドラマ中でも
ある人物が大石内蔵助に喩えられる場面が
ありました。
三谷幸喜も
『忠臣蔵』を連想した時点で
第2夜を書ける、という感触を
持ったのではないかと想像されます。
ポワロが乗り合わせたことで
計画に狂いが生じかけ
雪のために列車が止まったことで
さらに計画に狂いが生じる。
そのために犯人側が必死に対策を立て
何とか計画を進行させるという
裏のドラマの流れが
実にサスペンスフルだし
現代的だと思います。
だから後半は観てて飽きないのですね。
その指揮をとるのが誰なのか
それは第1夜のネタバレになるので
いえませんけど
映画とは別のキャラクターが
クローズアップされていて
それはなかなか良かったです。
ただ、実際の殺人の場面は
やっぱり1974年の映画を髣髴させて
シドニー・ルメット監督の演出を
踏襲している印象を受けました。
あえて、かもしれないし
リスペクトのつもりかもしれませんけど。
その伝でいえば
今回のドラマ化の第1夜めは
74年版映画のリメイク
といってもいいような
出来でした。
三谷幸喜版の第1夜は
映画に忠実である以上に
原作に忠実という
印象を受けましたが
そうはいっても
シドニー・ルメットの演出から
逃れられないようなところが
感じられたのも事実なんですよね。
オリエント急行(東洋急行)に乗り込む前の
アーバスナット大佐と
デベナムのやりとりなんかは
映画を踏襲している感じでしたし
オリエント急行の乗客が
次々とホームにやってくるシーンもそう。
ある写真をハードマンに見せて
彼を泣き崩れさせるあたりもそうで
ちなみに原作には
そういうシーンはありません。
ルメットの映画が
いかに完成度の高いものかを
証明している感じがされました。
また、野村萬斎演じるポワロも
アルバート・フィニーの影響なのか
昨今の風潮なのか
デフォルメし過ぎで
アクが強すぎる感じがします。
今回、読み直して分かったのですが
原作のポワロは
もっと控えめなキャラクターでした。
原作だと、
控えめなんだけど
獲物を追いつめたら牙をむく
というタイプなんですよね。
ポワロがハードマンに
「あなたは神か」と言われて
「いいえ、名探偵です」と
答える場面がありましたが
あそこって従来なら
「あなたは悪魔か」という
言い回しになるような気がします。
そこで「神か」と言うのを聞いて
昨今の日本の本格ミステリ界で議論になっている
「後期クイーン的問題」に絡む論題などを
ふと思い出したりしました。
ただ、第1部が
シドニー・ルメット調であればあるほど
第2部のキャラの崩れ方が目立つというか。
第1部では
みんな、そこそこシリアスだったのに
第2部では
ギャグっぽいキャラになったりしてて
そのギャップを楽しめるかどうかが
第2部を観通せるかどうかの
ポイントにもなっているような気がします。
特にアンドレニ伯爵夫人を演じた杏は
第2部では、
おきゃんな現代娘になってたし
草笛光子が演じたドラゴミロフ公爵夫人も
第2部では
せっかちなお婆さんみたいになってました。
松嶋菜々子も、あるシーンで
「何で燃やすかなあ」と
一瞬、現代人になってたし(笑)
あの「何で燃やすかなあ」というシーンは
そのシーン自体は好きなのですけど
それまでのドラマのトーンからすると
違和感があります。
とはいえ、見方を変えれば
そういうのって、舞台の演技の感覚に近い。
舞台で役者のアドリブがあって
お客さんにワッとウケるようなノリを
そのままテレビでもやってみた感じ
とでもいいましょうか。
舞台で、アドリブで
ギャグを言ったりやったりしても
観客は面白く思ってスルーするんですが
テレビ・ドラマの場合は
どうなんでしょうね。
そこでスルーできるかどうか
ウケるかどうかが
評価のひとつの分かれ目でしょう。
ところで今回
原作の翻訳を読み直したのは
三谷幸喜版の登場人物が
どれくらい原作の名前をもじっているかを
確認するためでもありました。
読んでいるうちに気づいたのですが
アームストロング大佐の名前は
アーバスナット大佐にはトビーと言われ(p.158)
アンドレニ伯爵夫人にはロバートと呼ばれ(p.269)
謎解きの場面(p.315)では
義理の母だった女性にジョンと呼ばれ
アーバスナット大佐にもジョンと呼ばれる
という不統一がありました。
(カッコ内は創元推理文庫旧版のページです)
トビーというのは
ロバートの愛称であるボビーの
誤植ではないかと思ったものの
手許にあった
ハヤカワ・ミステリ文庫版の中村能三訳でも
該当ページでは「トビー」になってます。
トビーはトバイアスの愛称なので
全部が正しいとすると
ジョン・ロバート・トバイアス・アームストロング
という名前になっちゃうんですけど(苦笑)
三谷版がベースにしている
クリスティー文庫版の
山本やよい訳では
どうなってるんでしょう?
三谷版で剛力大佐となっていたのは
某有名女優にあやかったわけではなく(笑)
アームストロングをもじった
実に巧い移し替えなのです。
そういうところも
楽しみどころのひとつなわけで
Wikipedia の項目には
原作の誰に相当するかが書かれてますが
全部あげきれてないようなので
参考までに以下にあげておきましょう。
Wikipedia の項目だと
結果的にネタバレになってるところもありますが
ここではそうならないように配慮しました。
以下は、三谷版人名(役者名)原作人名の順で
原作人名表記は創元推理文庫版
(長沼弘毅版)に拠ります。
●捜査側の人々
勝呂武尊(野村萬斎)エルキュール・ポワロ
莫(高橋克実)ブーク
須田(笹野高史)コンスタンチン博士
●被害者側の人々
藤堂修(佐藤浩市)サミュエル・エドワード・ラチェット
幕内平太(二宮和也)ヘクター・ウラード・マックィン
益田悦夫(小林 隆)エドワード・ヘンリー・マスターマン
●容疑者側の人々
馬場舞子(松嶋菜々子)メアリー・ハーミオン・デベナム
能登 厳大佐(沢村一樹)アーバスナット大佐
安藤良子(杏)へレナ・マリア・アンドレニ
安藤伯爵(玉木 宏)ロドルフ・アンドレニ伯爵
轟なつ侯爵夫人(草笛光子)ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人
昼出川澄子(青木さやか)ヒルデガルデ・シュミット
羽鳥典子(富司純子)カロリン・マーサ・ハッバード
呉田その子(八木亜希子)グレタ・オールソン
羽佐間才助(池松壮亮)サイラス・ベスマン・ハードマン
保土田民雄(藤本隆宏)アントニオ・フォスカレリ
三木武一(西田敏行)ピエール・ミシェル
●アームストロング事件の関係者たち
剛力曾根子(吉瀬美智子)ソニア・アームストロング
剛力大佐(石丸幹二)ジョン・ロバート・アームストロング
剛力聖子(小林星蘭)デイジー・アームストロング
小百合(黒木 華)シュザンヌ
笠原健三、通称・笠健(?)カセッチ
淡島八千代(?)リンダ・アーデン
轟侯爵夫人の名前は
「夏」とか「奈津」というふうに
漢字が当てられるのかもしれませんが
現時点では不詳です。
アーバスナット(アーバスノット)を
「能登」とするのは
分かりやすかったですけど
「幕内」が「幕」の「内」で
マックィン(マックイーン)かあ
と気づいたときには
大ウケしました。
ヒルデガルドを「昼出川」とするのは
ちょっと苦しいと思いますけどね(笑)
以上、2夜一緒にして感想を書いたので
長くなってしまい、深謝です。
