『偕成社ジュニア探偵小説資料集』
(盛林堂ミステリアス文庫、2014年12月6日発行)

マイミクさんが
ブログで取り上げていたのを見て
出ているのを知りました。


盛林堂ミステリアス文庫は
以前にも紹介したことがあります。

基本的に私家版
今風にいえば同人誌出版なので
新刊書店では入手できず
限定部数しか刷られないため
(本書の場合400部)
ブログで紹介するのは
ためらわれるのですが
本書は届いてすぐ眼を通して
息をも継がせず読み通せたこともあり
資料としても優れているので
同じ趣味を持つ好事家のために
紹介しておくことにします。

同じ趣味というのは
たとえば、以前にも何度かふれた
『少年少女 昭和ミステリ美術館』
愛読するような方です。

今回の本の編者は、あの本と同じで
あの本の好評を受けて
あちらでは踏み込めなかった
個々の作品に対する内相紹介と
講評を中心としたのが
今回の本ということになります。


偕成社から出ていた
「ジュニア探偵小説」全26巻は
自分が子どもの頃は
すでに書店の棚から
消えていたような気がします。

自分が子どもの頃に読んだのは
ポプラ社や秋田書店、
あかね書房の本が中心でした。

偕成社で読んでいたのは
「名探偵ホームズ」全22巻の何冊かと
「世界名作文庫」改め
「少年少女世界の名作」の何冊か
くらいではないか知らん。

自分はポプラ社から出ていた
山中峯太郎がリライトしたホームズもの
通称・峯太郎ホームズには親しまず
偕成社版で集めようとしていました。


……という話をし出すと長くなるので
元に戻しますと
だから「ジュニア探偵小説」は
子どもの頃は買ってませんでしたし
読んでませんでした。

大学生になってから
古本屋で見かけると買っていたぐらいで
ですから何冊かは持ってますが
全巻収集なんて
とっくのとうに諦めていたのです。

他に買う本・ほしい本が
いっぱいありましたし。


その「ジュニア探偵小説」の
書誌から内容から書影から
あらすじまで
すべて紹介されているだけでなく
他のシリーズ
たとえば「世界推理・科学名作全集」や
(後に「世界科学・探偵名作全集」と改名)
「世界探偵名作シリーズ」などの
翻訳もののシリーズでは
原題もきちんと記されていて
これは資料としてはすごい本でした。

本文は光沢紙を使ったカラー印刷で
美麗な表紙の色遣いも
すべて分かります。


特筆すべきは索引がついていること。

さらに、その索引ページには
初出が判明している作品には
掲載誌の書誌データが
原作が判明している海外作品には
原作の原題が並記されていて
これには脱帽でした。

実をいえば
『少年少女 昭和ミステリ美術館』で
いちばん物足りなかったのは
海外ものの原題が
示されていなかった点でした。

前にも書きました
児童向けリライト作品は
タイトルが改変されていることが多く
それでもすぐ見当がつく場合もありますが
原作となった作品を読んでないと
分からない作品も多いし
原作もそうですけど
リライトされた作品も
入手難なものが多く
物によっては
原作を確定するのは
かなり難しいのです。

そんなの分からなくてもいいじゃん
と、たぶんほとんどの人が
思うでしょうが(苦笑)
自分は「そんなの」に
こだわる人間なので
索引のデータは嬉しかったですね。


紹介文にもそそられるものがあります。

たとえば西条八十の
『青衣の怪人』(1951年初出)を紹介した
以下のようなくだり。

  前半は門倉家に隠されていた謎が
 じわじわと明かされていく
 サスペンスタッチの展開だが、
 後半になると物語は急展開を見せ、
 奥多摩の病院に監禁された千春に、
 言葉にするのもはばかれるような状況が
 襲いかかる。(pp.17-18)

あるいは、久米元一の
『恐怖島』(1952~53年初出)を紹介した
以下のようなくだり。

  作者のジュニア・ミステリの
 真骨頂ともいうべき
 荒唐無稽さがきわまった傑作、
 もとい怪作。
 (略)
 すさまじいのは終盤における
 〈赤い輪団〉の襲撃で、
 ジュニア・ミステリ史上でも
 ほとんど類のない、
 戦慄すべき手段が用いられる。(p.90)

どうです、読みたくなってきませんか?(笑)


150ページに満たない厚さで
お値段も少々張りますが
同好の士なら買って損はありません。

もっとも、同好の士なら
すでに購入済みかも知れませんが。


大衆児童もの、特に探偵小説
あらには、大人向けの作品を
リライトしたものについては
まさにリライトということがネックになって
あまり顧みられることがなく
書誌的な研究が遅れているのが現状です。

そんな中でこういう本が
私家版とはいえ
刊行されるのは嬉しいですね。

本書は『本の探偵』というシリーズの
第1巻にあたるそうですが
第2巻以降、何が取り上げられるのか
今から楽しみでなりません。


以上、こういうのに
まーったく興味のない人には
長文になってしまい
深謝です。


ペタしてね




●5分後の追記

書き忘れましたが
アップした写真の右側に出ている
ハガキ様のものは
本書に封入されていた
盛林堂ミステリアス文庫の
書影付き刊行リストです。

ほとんど(売切)というのが
泣かせる……