『スナーク狩り』集英社版
(1876/穂村弘訳、集英社、2014.10.29)

『不思議の国のアリス』で有名な
ルイス・キャロルの長編詩の新訳です。

先日、本屋で見たときは
眼を疑いました。


『スナーク狩り』には
これまでにも
沢崎順之助や高橋康也の訳したものが
出ています。

(抄訳だと高山宏訳もある
 らしいのですが未見です)

内容は
鐘打ち鳴らすベルマンを隊長に
 ブーツ(靴磨き)
 ボンネットとフードのメイカー(帽子屋)
 バリスター(弁護士)
 ブローカー
 ビリヤード・マーカー
 バンカー(銀行家)
 ビーバー
 ベイカー(パン屋)
 ブッチャー(肉屋)
といった面々が
幻獣スナークを狩りに行く冒険譚です。

以上、カッコ内は穂村訳での名称です。
沢崎訳では
「ボンネットとフードのメイカー」は
「ボンネットとフードの製造業者」に
なっていますけど
語呂が悪いのでカタカナ表記にしました。

あと、高橋訳では
ブローカーが仲買業者
ビリヤード・マーカーが撞球記録係
ビーバーは海狸
と、補記されています。


初めて読んだのは
『ルイス・キャロル詩集
 ——不思議の国の言葉たち』

『ルイス・キャロル詩集』筑摩書房板
(高橋康也・沢崎順之助訳、筑摩書房、1977.12.20)

に収録された
沢崎順之助訳で
中学生のころでした。

旺文社文庫版の
2つのアリスにハマって
訳も分からず購ったことを
覚えています。

当時はまだ真面目だったので
買った本はすぐに読んでました。

学校にまで持っていってましたが
これは若気の至りというか
若いモンらしい気取りというか
ちょっとイタい(苦笑)

言語遊戯が好きだった
ということもあり
面白く思ったのは
『スナーク狩り』以外の詩の
アクロスティックという
趣向ぐらいでしたね。

それでも
最終章のベイカーの台詞
「スナークは×××××だったのだ」
というフレーズは
よく覚えていますけど
内容自体は
あまり面白いとは思わなかった(笑)


この、2つのアリスほど知られていない
それも詩作品が
今ごろ訳されたのは
ムーミン・シリーズで有名な
トーベ・ヤンソンが
挿絵を描いているからです。

気づかなかったんですが
今年はトーベ・ヤンソン生誕100年の
アニバーサリー・イヤーだそうで。

トーベ・ヤンソンと
ルイス・キャロルのコラボでは
以前、『不思議の国のアリス』が
出ていました。

『不思議の国のアリス』メディアファクトリー版
(村山由佳訳、メディアファクトリー、2006.3.3)

上の本が出たときも驚きましたが
『スナーク狩り』でも
コラボが組まれていたとは
知りませんでした。

ちなみにヤンソン版アリス
(フィンランド語版)の刊行は
1966年で
本国ではすでに絶版になっているものの
なんと40年ぶりの翻訳でした。

メディアファクトリーさん、
よく見つけてきたよなあ。

ヤンソン版アリスに対して
ヤンソン版スナークの刊行は
1959年。

おお、本国では
こちらの方が早いのですね。

『鏡の国のアリス』の挿絵は
担当していないのか知らん。


キャロルの原書にも
ヘンリー・ホリデイという人が
挿絵を付けてますが
当時の挿絵ですから銅版画で
ジョン・テニエル同様かそれ以上に
今となっては
グロテスクな感じさえされます。

それに対して
トーベ・ヤンソンの挿絵は
ペン画なんでしょうか
描線が隅々までくっきりしている
銅版画とは違い
現代のイラストに近いですし
キャラクターも
ムーミン谷の住人を思わせるところがあり
なかなかいい感じ。

穂村弘は
ニューウェーブ短歌の旗手だそうで
今回は全体を
長歌形式で訳しています。

長歌というのは
五・七・五・七……と続けていって
最後は、五・七・七、で終える
韻文の形式だそうです。

(学校の古典の時間に
 習ったような気もしますが
 すっかり忘れている【 ̄ー ̄;)

そのため直訳調とは違い
かなり読みやすいものになっています。

少なくとも沢崎訳よりは、いい感じ。

これなら中学生のころ読んでも
楽しめたかもしれませんが
註釈(語釈)がひとつもないので
やっぱり不満に思ったかも(苦笑)


あと、今回の刊本は
オビ裏に書かれている
「噂が噂を呼ぶ——
 目に見えない『もの』への
 はかりしれない恐怖。
 これは
 『不思議の国のアリス』の作者
 キャロルの
 予言だったのかもしれない!?」
というリード文は秀逸でした。

なるほど、そういう読み方をすれば
極めて現代的な印象を受けます。

中学生の時だったら、やっぱり
分かんなかった気もしますが(苦笑)

こういう読みって
キャロル学の分野では
共有されているんでしょうか。

気になるなあ。


なお、フィンランド版には
なかったのかもしれませんが
原典の初刊本には
キャロル自身の序文も付いてます。

そちらは以下の訳本

『スナーク狩り』新書館版
(高橋康也訳、新書館、2007.8.5)

に、角川文庫で2つのアリスを新訳した
河合祥一郎の訳で収められていますので
興味のある方は、そちらでどうぞ。


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