
(新潮文庫、1987年4月25日発行)
元版は1982年11月に
新潮社から刊行されました。
以前、同じ作者の本で
陸軍に徴用されて
マレー方面へと従軍した経験を書いた
『徴用中のこと』(1996)を
紹介しましたけど
こちらにも徴用され、従軍した体験が
少しだけ書かれています。
そのことを Wikipedia で知り
目を通しとかなくちゃなあ
と思っていたところ
近所の古本屋で見つけたので購入。
こちらのブログでは
今ごろ紹介してますが
『徴用中のこと』と前後して
読了しています。
徴用された体験について
書かれているのは
「続・阿佐ヶ谷将棋会」
という章の中だけですが
『徴用中のこと』では触れていない
日本を出発する際のことが書かれていて
興味深かったです。
徴用されると、軍刀持参で
大阪城天守閣前広場に集まるよう
指示されたそうです。
軍刀持参というのがすごいというか
それぐらい配給しても
いいと思うんですけど
それはまあ、今の感覚でしょうか。
もっとすごいと思ったのは
必ずしも従わなかった作家もいて
それが小栗虫太郎だったことです。
この本の中では
「怪奇小説作家」として紹介される
小栗虫太郎は
「軍刀はどこにも売っていなかったと言って、
手に何も持たないで入隊した」(p.144)
そうです。
後に「海峡天地会」(1942)という
軍部に批判的な小説を書くだけに
これは恐らく
わざとではなかろうか
と想像するのも楽しいですね。
『荻窪風土記』自体は
作者が昭和初期に荻窪に移住してからの
文学者との交友録と
荻窪の風俗・変遷が描かれた本で
関東大震災時の経験なんかも
書いてあります。
売れない貧乏文士なのに
郷里の兄からお金を借りて
土地を借りて家を建て
結婚して子どもを設ける
なんてことが、なぜできたのか
不思議で仕方ありません。
昔は、何とかなったんだろうなあ
と思うしかないわけですが(苦笑)
文学者との交流も興味深い。
お馴染みなところでは
太宰治も登場します。
全体を通読しての印象は
NHKの朝の連続テレビ小説みたいだなあ
というものでした。
関東大震災や二・二六事件など
同時代の事件についても書かれているし
もちろん、戦時中の話も出てくるし
地元に古くからいる人や隣近所の人、
いろいろな文学者との交流が描かれるので
まあ、NHKっぽいなあと
思ったわけです(笑)
『徴用中のこと』よりも
まとまっていて
読みやすかったです。
マレーでの出来事は
あちらの方が詳しいですけど
一般的な随筆文学としては
こちらの方が
楽しめるのではないかと思います。
昭和初期の文学青年好きには
おススメかもしれないなあ。
