『徴用中のこと』(中公文庫版)
(中公文庫、2005年8月25日発行)

元版は1996年7月に
講談社から刊行されたものです。

もともとは
中央公論社の文芸雑誌『海』に
1977年から90年にかけて
連載されたもので、
1986年に新潮社から出た
『井伏鱒二自選全集』に
修正の上、収録されました。

その際、
修正された部分や削られた章を
連載版に合わせて
元に復したのが講談社版で
中公文庫版はその文庫化です。


『井伏鱒二自選全集』は
教科書にも載ってよく知られている
「山椒魚」の結末が
削除されたことで話題をまいた
有名な全集です。

まあ、それはともかく
今回、調べものの必要から
買っておいたものを読み通しました。


井伏鱒二は
1931(昭和16)年11月に
陸軍徴用員と召集を受け
シンガポールで報道班員として
現地新聞の編集などに携わりました。

したがって本書は
いわゆる従軍作家体験記
というべきものですが
この本を買っておいたのは
知人から、
小栗虫太郎のことが書かれている
と聞いていたからでした。

小栗虫太郎は井伏鱒二と同様
第1回の徴用員として
南方に派遣されたのですが
途中のマレーに行くまで
同じ船中で過ごしたのでした。

その船中には
反軍国的発言をスパイする人間がいて
小栗は船内新聞に
そのスパイをモデルにした童話を書いた
というエピソードが載っています。

というようなことを聞いて
だから資料として買っておいたのですが
そのまま読まずに済ませていたのを
今回、ようやく読んだ
というわけです。

現在、ニュースなどで話題の
デング熱の名前がよく出てきて
ちょっと不思議な感じがしたことでした。


何度も同じ記述が出てくるし
時系列も前後するしで
読んでいて楽しい
という類いのものではありませんけど
たまに知っている名前の作家が出てくると
おおっと眼をそばだてたりできますかね。

オビには
「『黒い雨』以前の傑作」
と謳っていますけど
それはどうでしょうか。

井伏文学には
あまり親しんでないので
分かってないだけかもしれませんけど。


この本が出た時は
なぜか中公文庫が戦争文学づいていて
海野十三の『赤道南下』なんかも
文庫化されたものでした。

そちらも、海野の本だから買いましたが
いまだに積ん読のままです。f^_^;

でも、今回のように
いつか必要に迫られて
読む機会もあるでしょう。

当たり前の本の買い方とは
ちょっと、いえないかもしれませんが
自分は、それもありだと思っています。


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