『密室の王』
(2013/羽田詩津子訳、角川文庫、2014.5.25)

前にも書いた通り
「密室」と謳われていると
すわトリックものか
と期待してしまうのですが
こちらの「密室」は
いわゆる密室殺人トリックものではなく
少女を誘拐監禁しておく空間を
「密室」と称しているだけでした。

まあ、それは50ページほど読むと
すぐ分かることなんですがね。


アメリカはジェファーソン郡で
失踪して行方知れずだった少女が
地下室に閉じ込められているのを
発見されます。

少女の精神的なサポートをするために
精神科医が呼ばれますが
被害者の両親は
精神科医のサポートが
意味のあることだという
保障が欲しいという。

そこで呼ばれたのが
やはり少女監禁犯の許から
救出された経験を持つ
リーヴ・リクレアでした。

(リーヴのように
 生きたまま救出された存在は
 「生還者(サバイバー)」と
 呼ばれます)

リーヴが少女と心を通わすうちに
逮捕された男は
真犯人ではないというか
計画立案者ではなく
世話係であったことが分かります。

もっともこれについては
計画立案社である
「真犯人」側の視点から書かれる章が
物語の最初から挿入されますので
読者の方は分かっているわけです。

ただし、その犯人は「公爵」と呼ばれ
実名は途中まで明かされませんが。

「真犯人」について誰にも話さないと
少女に約束したリーヴは単身
いまだ発見されていない
残りふたりの少女の監禁場所を
探そうとする……というお話です。


自分の頭の良さを誇り
全能感にあふれている犯人像や
その計略をめぐらした振る舞いなどは
ジェフリー・ディーヴァーが書くような
サイコ・スリラーを
思わせるところがあります。

作者はこれまでにも
ノンフィクション・ライターとして
監禁事件をテーマとした
本を出しているだけあって
初のフィクションにしては
危なげのない筆致ではありますし
それなりに読ませますが
作品としての目新しさは
あまり感じられません。

読んでいるうちは
ハラハラドキドキさせますし
「公爵」には怒りすら覚えますが
読み終わってしばらくすれば
忘れてしまいそうな作品です。

よくできたエンターテインメント
というふうに考えれば
それで充分なんですけどね。


ただ、少なくとも
「密室」という言葉が
タイトルになければ
読もうとはしなかったろうな
と思います。

見事に釣られてしまったわけでして。

面白かったから
まあ、いいんですけどね。


ちなみに原題は
The Edge of Normal
といいます。

「あたりまえの果て」とでも
訳せばいいんでしょうか。

確かに邦題に迷いそうです。


ペタしてね