『摩天楼の密室』
(1996/塩川優訳、扶桑社ミステリー、2014.3.10)

「密室」という言葉に
すぐ反応してしまうのは
本格ミステリ・ファンの
性(さが)とでも
いうべきものでしょう(苦笑)

ただし「密室」といっても
いわゆる密室殺人トリックもの
とは限りませんで
閉鎖空間、ないし
クローズド・サークルでの物語にも
密室という言葉が冠されることが多い。

いわゆる密室劇というやつですね。


訳者あとがきでもあげられている
アガサ・クリスティー
『そして誰もいなくなった』(1939)や
ロイ・ヴィカーズ
The Sole Survivor(1951)、
東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』(1992)
の他にも
アントニイ・バークリー
『パニック・パーティー』(1934)、
エラリー・クイーンの
『シャム双子の謎』(1933)も、そうかな?
日本だと、
古処誠二『少年たちの密室』(2000)
岡嶋二人『そして扉は閉ざされた』(1987)
蒼井上鷹『出られない五人』(2006)
米澤穂信『インシテミル』(2007)
といった作品が思い浮かびます。

なんか日本の作品の方が多いですけど
それは当方の勉強不足ということで f^_^;


船上ミステリや航空ミステリも含めると
もっとリストは増えそうですが
それはともかく
ジョー・バニスターという
イギリスの女性作家による本作品も
「密室」と邦題で謳ってますけど
密室殺人トリックものではなく
クローズド・サークルものです。

ぶっちゃけ、明らかにクリスティーの
『そして誰もいなくなった』が
元ネタだろうと思わせる作品です。

カバー裏の内容紹介に引かれている
向こうの書評に
「最上のパスティーシュ」
と書かれたのは
そのためでしょうね。


舞台は建設中のホテルの
エレベーターでのみ通じている
屋上にあるペントハウス。

途中階までと
屋上のペントハウスは完成していて
その間は鉄骨がむき出しという設定が
ちょっと印象的でした。

この屋上のペントハウスに
自己啓発セミナーに参加するため
7人の男女が集まるのですが
いろいろと話している内に
全員、自殺した女性テニス・プレーヤーに
関係があることが分かってくる。

不審を覚えて帰ろうとしますが
工事作業員のミスなのか
エレベーターの電源が切られていて動かない。

全員、ペントハウスに
閉じ込められてしまったのです。

そのうちに
心理カウンセラーを務める女医が
何者かに襲われ昏倒し
謎の怪人が徘徊し始める……。


読んでいた時は
最初は大きな犬ともいわれた
謎の怪人が目撃された時点で
大丈夫かよと思ってしまったのですが
特に超自然的な要素が絡むこともなく
単なるサスペンスものにとどまることもなく
意外と筋のいい推理ものとして
着地していました。

昔なら、こういう作品を
小味な秀作と評したものです。


ジョー・バニスターは
これまで短編が紹介されたことはありますが
長編は本作品が初めてです。

本作品はノンシリーズものですが
別に、シリーズものをふたつ
持っているようですし
他の作品も読んでみたいですね。

どこかで訳してくれないか知らん。

もちろん扶桑社ミステリーでも
いいんですが。


訳者あとがきであげられていた
ロイ・ヴィカーズの作品も
どこかで訳してくれないかなあ。


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