『ノワール文学講義』
(研究社、2014年5月30日発行)

オビにも書いてある通り
『「マルタの鷹」講義』(2012)で
日本推理作家協会賞を受賞した
アメリカ文学研究者による
これまで各所で書かれた論考をまとめた
ノワール文学論です。


「ノワール」というのは
「黒」を意味するフランス語で
ノワール文学というのは
チョー簡単にいってしまうなら
ハードボイルド文学のこと。

本書ではダシール・ハメットを始め
レイモンド・チャンドラー、
E・S・ガードナー、
ジェイムズ・M・ケイン、
ホレス・マッコイといった
日本では
ハードボイルド作家としてくくられる
小説家たちについて
集中的に論じられています。


特にハメットに関する論考が多く
光文社古典新訳文庫版のために書いた
『ガラスの鍵』解説とか
『ハヤカワミステリマガジン』に載った
ハメットの5つの長編を瞥見した論考は
どちらも面白い。

特に後者は
短いながら読みでがありました。


また、E・S・ガードナーを
まともに論じるエッセイは
かつてはともかく、最近では
とんと見られなくなったので
貴重だし、示唆的です。

自分もガードナーは
ほとんど読んでいないので
興味深く読みました。

ネタバレがあるのは困りものですけど。( ̄▽ ̄)


読んでいて思ったのは
やっぱりハメットは唯一無二。
すごい作家だということです。

個人的には、チャンドラーより
ハメットの方が好きなので
著者のハメット論には
すごく共感できました。


文学者の書いた研究エッセイだけあって
「ノワール」や「ハードボイルド」に
一定程度の定義が示されている点は
さすがというべきでしょうか。

「ノワール」については
上に掲げた写真の
オビにも書いてある通り。

「ハードボイルド」については
引用すると長くなるので
82ページをご参照ください
と行っておくにとどめます。


初期ノワールと
後期ノワールという概念区分を
出している点も
学問的な厳密さ・潔癖さが感じられて
好感が持てます。

なんか偉そうな書き方で
すみません。f^_^;


冒頭に収められた「黒い誘惑」で
「ノワール小説の起源を
 世紀転換期の自然主義文学に
 見ることができるのではないか」(p.40)
という問題適期がなされています。

そういわれて思い出すのは
エミール・ゾラの
『テレーズ・ラカン』(1867)。

映画『嘆きのテレーズ』(1953)の
原作でもあるこの小説、
映画の方はあいにく観ていませんが
昔、読んだ記憶だと
ノワールといって紹介しても
おかしくない内容だったと思います。

そんなことも想起させられる
刺激的な一冊でした。


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