『わたしの好きなレコード』
(中矢一義訳、中公文庫、1987.12.10)

親本は、1977年に音楽之友社から
『ドナルド・キーンの音盤風姿花伝』
という題名で出ていたものだそうです。


ドナルド・キーンは
アメリカ人の日本文学研究者で
近年では『日本文学史』(1976~2013)が
よく知られているかと思います。

今回の本自体は刊行年が古いですし
オペラについての記述がメインなので
オペラに興味関心のない自分には
猫に小判、豚に真珠
といった類いの本かもしれません。


ただ、今回漫然と読んでいて
「オペラは何語で歌うべきか」が
ちょっと面白かった。

英語や日本語に翻訳したものを
聴かされるよりは
自分の分からない言語で聴く方が
純粋に音楽を聴くことに専念できる
というのは
なるほどという感じで。


あと「音楽批評あちらこちら」も
面白かった。

三人の批評家を呼んで
あらかじめ演奏者を明かさないで
聴いて批評してもらう
というニューヨークのFM番組は
なかなか興味深い。

日本でこんな番組をやって
間違ったことを言ったら
その批評家は
二度と意見を述べる勇気を
持てなくなるだろうというのは
確かに、という気がしましたね。


ドナルド・キーンが
このエッセイを書いていた頃は
バロックの古学演奏ムーヴメントが
もう始まっていたのではないか
と思うのですけれど
古楽のことはもちろん
バロック・オペラの復興のことも
いっさい書かれていないのは残念です。

「古いレコード、新しいレコード」では
ブランデンブルグ協奏曲にふれてますけど
アドルフ・ブッシュ指揮
ブッシュ室内管弦楽団と
ルドルフ・ゼルキンの
ピアノ・ソロ演奏盤(1935年録音)と
ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー室内管弦楽団と
サーストン・ダートの
チェンバロ・ソロ演奏盤(1971年録音)とを
比べて、後者がいいと書いてますけど
こちとら古楽ファンなので
レオンハルト盤やアーノンクール盤を
聴いてほしかったなあ
とか思ったり。


まあ、とにかく
言葉の意味が分からない方が
音楽に専念できるそうですから
消費増税前に買っておいた
アーノンクールが関わった
モンテヴェルディ・シリーズの
DVD-BOX を
そろそろ観てみることにしましょうか。


ちなみに本書は文庫版では品切れ。

新刊としては下の

ドナルド・キーン著作集第八巻 碧い眼の太郎冠者/新潮社

¥4,104

に入っていますが
少々値段が張りますので
古本で文庫を探して買うのが
よろしいかと。


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