『琥珀色の瞳の家庭教師』
(1960/出水 純訳、マグノリアロマンス、2013.11.9)

マグノリアロマンスというのは
オークラ出版から出ている
ロマンス小説の文庫シリーズです。

ロマンス小説は守備範囲外ですが
ヴィクトリア・ホルトの新刊だと聞いては
買わないわけには行きません。


ヴィクトリア・ホルトといっても
熱心な海外ミステリ・ファン以外には
誰それ? という感じでしょうが
昔、角川文庫から
『流砂』(1969)ほか
三つの長編が訳されていて
一部の海外ミステリ・ファンに
その名を知らしめた作家なのです。

でも自分は
その角川文庫の三冊を
読んだことはないのですけどねf^_^;


海外では(訳者あとがきにもありますが)
ゴシック・ロマンスの女王として
知られていて
ロマンス系の叢書から出ることもあり
油断ができないのです。

今回は『ミステリマガジン』の
年間ベスト特集号(2014年1月号)で
三橋暁氏がコラムで取り上げていて
出ていたことを知りました。

そのコラムでも書かれている通り
かつて「メリン屋敷の怪」という邦題で
『リーダーズ・ダイジェスト名著選集』に
抄訳が収録されていたものの完訳です。


ホルトは別名義をいくつも持っていて
1940年代から活躍している作家ですが
一般的にはホルト名義の作品が有名。

『琥珀色の瞳の家庭教師』は
ヴィクトリア・ホルト名義での
長編第一作であります。


本作品は
女性家庭教師が苦難を乗り越えて
勤め先の屋敷の主人と結婚する
というお話で
幽霊が出そうな屋敷や
死んだ妻の秘密が絡む
典型的なゴシック・ロマンス
といえるかもしれません。

「典型的なゴシック・ロマンス」
というとき
自分がイメージしているのは
デュ・モーリアの『レベッカ』(1938)や
F・H・バーネットの『秘密の花園』(1911)
だったりするんですけど
女家庭教師が屋敷の主人と結婚する
というお話の内容から、すぐに
シャーロット・ブロンテの
『ジェーン・エア』(1847)を連想する人も
いるかもしれませんね。

自分は残念ながら
『ジェーン・エア』を読む機会を
持てないでいますが(^^ゞ

その家庭教師に
近所に住む美人との
アヴァンチュールを楽しむ
屋敷の主人が惚れる
という点が
御都合主義すぎる気がしますが
お約束と考えればいいわけで
目くじらを立てるのは
ヤボというものでしょうか(苦笑)

それよりも
1960年代にあっても、なお
「良家の子女が貧窮したとき」とれる手段は
結婚か「いい育ちに見合う職を見つけること」で
その「いい育ちに見合う職」(のひとつ?)が
家庭教師である
というふうに考えられているのが
ゴシック・ロマンスのパターンを
踏まえただけとはいえなくもないものの
興味深いことでした。

あと、女家庭教師
いわゆるガヴァネスの立ち位置
(単純な使用人ではないし
かといって主人と同等でもない
という立ち位置)が
よく分かるのも興味深かったです。


最後は、隣家の男と駆け落ちして
鉄道事故で死んだと思われていた
かつてのメリン屋敷の女主人について
ある真相が明らかとなります。

いわゆる意外な結末で
そこはミステリっぽかったですけど
三橋氏が書いているように
「本格」ミステリとまで
いえるかどうかは
ちょっと疑問です。

後半が、ちょっと
駆け足過ぎる気がするし
屋敷の主人からプロポーズされた途端に
探偵的好奇心が後景に退くのも
どうかと思いましたが
(さすがロマンス小説【苦笑】)
ただ、犯人の動機は
ちょっと面白かったですね。

ルース・レンデルの小説にも
似たような感性のキャラクターが
出てきたような気がしますが
一部のイギリス人には共感できる
(動機として納得できる)
感性なのかもしれません。


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