$圏外の日乘-『マドモアゼル』
(祥伝社、2013年3月30日発行)

『新青年』研究会の会員でもある
島村匠さんの新刊を読み終わりました。

作者名は「しまむら・しょう」と読みます。

有名なアニメのヒーローの名前を
もじっているのだったりして(笑)


祖母の遺品の中から見つかった
血まみれのスーツは
有名なフランス人の服飾家
ココ・シャネルの作ったものらしい。

それが本当にシャネルのスーツだとしたら
なぜ日本人の娘のために仕立てたのか。
また、そのスーツはなぜ血まみれなのか。
そして、スーツと一緒にしまわれていた
スナップ写真に写っているドイツ人は何者なのか。

そうしたいくつかの謎をめぐる
女性ライターの調査を描いた、伝奇小説です。


伝奇小説ですから
後にフランス文学の翻訳家となる
(サガンとボーヴォワールの翻訳で有名な)
朝吹登水子が出てきたり
海外で活躍していた映画俳優の
早川雪洲が出てきたりと
実在の、意外な人物が登場するのも
楽しみどころのひとつ。

久生十蘭の小説についても
ちょっと言及されているのが
『新青年』研究会らしいかも(笑)


物語自体は
仲の悪い母親と共に調査を進める
女性ライターの視点と
スーツの持ち主だった祖母の
娘時代の視点と
ココ・シャネルの視点と
全部で三つの視点を通して
語られていきます。

女性ライターの視点は現代ではなく
1971年になっていて
調査対象の時代背景は
1930年代後半から1940年代前半までに
設定されています。

その戦前のパリで祖母が
どういう事件に巻き込まれたのかは
伏せておきます。

ただ、まあ、本のオビに
重要な実在の登場人物の名前が
示されているので
勘のいい人なら想像できるかも知れません。

オビ背には「国際サスペンス」とありますが
版元としては歴史小説という認識から
ミステリの惹句ほど
神経質にならなかったのかもしれません。

確かにその名前を出せば
興味を持って買う人もいるかもしれません。

でも、いちおう謎のベールが
一枚一枚はがれていくような構成なので
「意外な人物」くらいに留めておいた方が
良かったような気もします。


女性ライターの母親は
学生運動に参加したことがあり
また、過去パートが
ドイツに占領される前後の
パリを舞台にしているので
国家や民族という括りで
個人の信念や自由を侵害することに対する
批判的な言説がそこここに見られて
それが二重に過去を舞台にしながら
現代にも通じるような作品になっている
というふうに感じました。

男性が牛耳る政治や戦争に対して
女性が自らの信念で対峙する
というのは、二項対立として
やや図式的な気もしますけど
小説を通して語られる批判的な言説自体は
どれも納得・共感できるものですし
書き手のいわゆる反骨精神をうかがわせて
好感を抱いた次第です。


リップ・サービスでなく面白かったです。

海外ミステリでいえば
ロバート・ゴダードが書くような
時代ミステリがお好きな方であれば
おすすめ。