
(朝日新聞出版、2012年10月30日発行)
副題は「on the street where you live」。
これは映画『マイ・フェア・レディ』(1956)の
挿入歌「君住む街角」の原題です。
前にも書いた通り
代官山の蔦屋書店で買いました。
本書の前に出た
『橋本治という考え方』(2009)が
四六ハードカバー本だったのに
こちらは四六ソフトカバーで
四六ソフトというのは読みやすいから
嫌いな装丁ではありませんが
なんだか格落ちした感じ。
本の小口に
ヤスリがかかっているだけに
(いわゆる「小口研磨」というやつ)
余計そんな感じ。
失礼ながら
売れてないのかなあ
とか思っちゃいました。(´・ω・`)
内容自体は格落ちしてませんで
前作同様の啓蒙啓発にあふれた本ですが
前作が文学論的な傾向があったのに対し
本書は社会時評的な傾向が強いです。
時事ネタが多いというか。
文学の話はちょびっとしか出てきません。
大雑把にまとめれば
日本人は人の話を聞けない議論下手
という内容の本
ということになりましょうか。
かなり大雑把ですけど(^^;ゞ
というのも
「『絶対反対』と言う人を
説得することは出来ない」や
「一番肝心で
一番むずかしいところ」
というタイトルの文章が
印象に残るからなんですが。
「絶対反対」という人は
説得されることを
負けることだと思っているから
説得に応じないし
妥協点を探すつもりもない。
だから、妥協点を探るための議論を
しないし、できない。
「そもそも議論というのは、
『いろんな人が集まって、
いろんな人の言う
いろんなことを聞く』ところから
スタートするもんだと思う」(p.207)
というのは
ズッキューーーン的な考え方ですが
「絶対反対」と言う人は
自分の主張を通そうとするだけで
人の話を聞く耳を持たないわけです。
これに関連して(だったかな?)
聖徳太子はいろんな人の訴えを同時に聞けた
という有名な話は
「『勝手に考えるより、まず聞け』
ということなんじゃないかと思う」(p.203)
という解釈も、なるほどー、な感じです。
「一番肝心で
一番むずかしいところ」では
自分の立場を中心にものを言う人は
立場を持たない人をバカにするし
自分の発言が理解されなくても
構わないと思っているし
理解できないから
「分からない」と言って聞き返すと
聞き返す人をバカにするし
バカは放っとけと相手をくくる。
今は「日本中そういう人だらけ」(p.232)
と書かれていて、やっぱり
ズッキューーーンと来るんだなあ。
来ませんか?(苦笑)
この本の原稿を書いている間は
日本社会全体では政権交代とか
東日本大震災とかがあったわけですが
橋本治自身は
マンションの自治会長をやらされたり
顕微鏡的多発血管炎という
都指定の難病を発症したりしたそうです。
自治会長の経験が上記のような
「絶対反対」と言う人についての知見に
つながっていったようです。
なお、難病の闘病記めいたものも
本書の一章を構成していて
これがまた妙におかしくて面白いし
はっとさせられるようなことが
書かれています。
入院中に観察した
高齢者の患者についてのエッセイは
読んでいると、
そうはなりたくないなあ、と
強く感じさせますね。
ともあれ
文学や映画への言及は少ないですが
前著同様、楽しめましたし
だからあっという間に読んでしまいました。
もったいない。
しょうがないから遡って
一番最初の『橋本治という生き方』を
ネットで注文しちゃいました。
なお、今回の本の作りに関して
ひとつ苦言を呈するなら
ページの横に
当該ページの文章のタイトルを記す
いわゆる本のハシラ部分が
前著では収録エッセイごとに立っていたのに
本書では章タイトルのみが立っているだけで
しかも見開きになった時の
左ページの左下に縦書きで立ててあります。
デザイン的に面白いと思ったのでしょうけど
読んでいるうちに
この文章のタイトルは何だっけ
と確認したくなったとき
いちいちエッセイの冒頭に戻るか
目次に戻るかしないといけないのが
面倒くさい。
使い勝手が悪いなあ、と思った次第です。
ほとんどの人は
気にしないかもしれませんけどね。