$圏外の日乘-『にごりえ殺人事件』
(双葉社 FUTABA NOVELS、1984.12.10)

1887(明治20)年の東京を舞台に
小新聞(こしんぶん)『文明新聞』の
社主・前沢天風が
連続私娼殺人事件の謎を解く話です。

ちょっと必要があって読み返しました。


タイトルに「にごりえ」とあるのは
まだ小説家としてデビューする前の樋口一葉が
奈津という本名で登場し
天風に事件解決の示唆を与えたりするからで
カバーの表紙絵は
一葉が小説を執筆しているような
イメージですけど
こんなシーンは作中にないし(苦笑)
一葉の小説『にごりえ』とも
直接的な関係はありません。

『にごりえ』が、苦界に身を沈めた
お力(りき)という女性の話であり
『にごりえ殺人事件』もまた
私娼という苦界に身を沈めた女たちが
被害者になる話なので
象徴的なレベルでは分からなくもなく
題名に偽りありというわけではないのですが
いわゆる文芸ミステリではありませんで
明治を舞台とする時代ミステリだし
一葉はあくまでも脇役です。


娼婦の腹を割いて殺すという手口は
有名なイギリスの事件を連想させますが
単なるシリアルキラーものではなく
それなりにトリッキーな仕掛けも
用意されています。

とはいっても
派手なトリックや鋭い推理が
描かれているわけではなく
全体的な印象としては
ライト・ミステリな感じですが
昨今の翻訳ミステリにおける
歴史時代ミステリと比べても
プロット的に
さほど遜色があるとは思えません。


エピローグにあたる部分を読むと
作者は、前沢天風を
これ一作限りのキャラクターに
するつもりだったようですが
後に『開化殺人帖』(1987)で
天風を復活させ
都合四作の続編を著しており
そちらにも樋口一葉が登場します。

ワン・クール程度の
テレビ・ドラマの原作に
ピッタリじゃないか
とも思うのですが……


『にごりえ殺人事件』は
後に双葉文庫に入りました(1986年刊)。

興味のある方は読んでみてはいかが

……といいたいところなのですが
残念ながら現在
シリーズのすべてが品切れ、絶版です。

この手のは、BOOK-OFF とかでは
なかなか見つからないもんなので
ネットで探した方が早いかもしれません。

確か自分も
ネットの古本屋で探して買いました。

そしたらオビが付いてたんで
ラッキー♪ と思ったことでした(笑)

$圏外の日乘-『にごりえ殺人事件』(オビ付き)