
(1934/佐倉潤吾訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、1978.9.15)
今から約80年前に
アメリカで刊行されたミステリです。
ネロ・ウルフという安楽椅子探偵と
その助手アーチー・グッドウィンが登場する
シリーズの第1作で
1958年にハヤカワ・ミステリの1冊として
初めて日本語に訳され
その20年後に文庫化されました。
そして文庫化から35年目にして
初めて読んだ次第です(お恥ずかしい【^^ゞ)
この本の紹介を年頭に持ってきたのは
もちろん、今年の干支にかけたわけです。
原題は Fer-de-Lance で
南米に棲息する毒蛇の名前です。
和名を「カイサカ」というそうですが
どうしてこういう和名なのかは知りません。
ネロ・ウルフ・シリーズは
本格ミステリに分類されていますけれど
あまり本格っぽくない。
「レックス・スタウトは、
“探偵を描くことだけを目標とした
パズル・ストーリー・ライター”なのだ」(各務三郎)
といわれたことがありますし
「安楽椅子探偵がおまけについてる、
アーチー・グッドウィン主演の
ライト・ハードボイルド」(若竹七海)
といわれたこともあります。
だいたいそこらへんで
作風をはかっていただくことにして
『毒蛇』は、200ページあたりで
メイン・プロットが分かってしまい
残り130ページで
どうやって犯人を捕まえるか
どうやって罪を確定するか
という話が描かれる構成になってます。
重要な証拠を握る娘に
その証拠を提出させるため
ひと芝居打つ場面がありますが
その芝居はかなり乱暴で強引。
いわゆる本格ものの名探偵の策略とは
思えないような気がします。
殺人方法のトリックも
短編を支える程度のものでしか
ないんじゃないかなあ。
アリバイ・トリックも
今となってはよくある方法ですが
その先駆的作品といえるかもしれません。
プロットも、現代の眼からすれば
ありふれている感じ。
じゃあ、どこが読ませどころかというと
多くの人がいっているように
ウルフとアーチーとのやりとりの面白さ、
要するにナラティヴの面白さで
ウルフがどうやって犯人を追い詰めるか
どうやって報酬を得るか、という興味で
読ませていくわけです。
あと本書に関しては、前半で
ウルフが、事件捜査に無気力になる
「病気」の状態が描かれていて
アーチーをやきもきさせるのが
興味深かったです。
あと、ウルフが、アーチーや
お抱え料理人、お抱え園芸係を
自分が責任を持つ
ファミリーとして考えている点が
シリーズ第1作から打ち出されていたのは
意外でした。
上に掲げた写真は旧カバーのもの。
イラストをよくよく見てると
ネタのひとつが割れるかもしれないので
ご注意ください。
上のイラストから想像がつく通り
ゴルフ・ミステリでもあるわけで
ウルフがゴルフというスポーツを知らなくて
運動具屋にクラブを一式運ばせて
スイングさせたりしたため
店員にバカにしたような目で見られる
というシーンもあります。
世の中にはゴルフがらみなら何でも読む
という人もいるようですが
それでこの本は売れたのかどうか
やや疑わしい(苦笑)
新年早々、古本の話題で恐縮ですが
ただし現在、Kindle 版が発売されてて
それでなら簡単に読めるようです。
まあ、いい機会なので
干支にかこつけて
不勉強を解消させていただきました。
今年もこんな感じで
圏外な感じで参ります。
(新刊じゃないあたりが
そして Kindle 版じゃないあたりが
圏外な感じだと思う次第でして)
本年もよろしくお願いいたします。