
(角川書店、2012年9月30日発行)
第32回横溝正史ミステリ大賞は
2作同時受賞でしたが
その内の1作が今回ご案内の
『デッドマン』です。
『世界を売った男』を紹介した時に
島田荘司の提唱する
21世紀本格ミステリーそのもの
みたいなことを書きましたが
こちらの『デッドマン』も
島田理論の忠実なトレース
という印象を与える作品です。
とはいえ、以下、あまり誉めてません。
未読の方はそのつもりでお読みください。
都内で首なし死体が発見され
警視庁捜査一課のメンバーを中心に
捜査本部が立てられるのですが
続いて胴体のみが失われた
殺害死体が発見され、さらに……
というお話なのですが
連続バラバラ死体事件と並行して
正体不明の人物
「デッドマン」による手記が
挿入されます。
なぜ「デッドマン」と呼ばれるのか
を書いちゃうと
勘のいい人なら
ある犯行の理由の見当が
ついてしまうので
ここでは伏せておきます。
手記の内容自体がはらむ謎
というものもあることはあるので
想像がついてもいいんですけどね。
それよりも
「デッドマン」の手記と並行して
捜査一課の面々が描かれるのですが
主要キャラ4人の刑事たちの描き方が
軽薄すぎる。
軽薄といって悪ければ
まるでテレビドラマに出てくる刑事たちのような
それこそ、特捜最前線にでも出てきそうな(笑)
類型的な描き方をしているので
(自分的にはそう感じたので)
プロットの割には
2時間ドラマ程度の印象しか
残らない気がしました。
昼行灯で、ときどき鋭い勘を働かせるて
余人には思いもよらない行動をする主人公、
その部下は大学出の刑事オタク、
その同僚は粘り強さが特徴で
チームのムードメーカーにもなる
ひょうきんキャラ、
クールだけど実は熱いプロファイラ、
その四人の類型的なやりとりと
デッドマンが記述する世界との違和感は
ハンパないです。
おまけに最後のシーンでは
ヒロイズムとメロドラマが
全開しているものだから
『特捜最前線』のエンディング・テーマ
「愛の十字架」のメロディーが
聴こえてきそうでした(苦笑)
プロット自体は
必ずしも悪くないと思うんですけどね。
デッドマンの記述をめぐる真相は
島田理論を使った優等生的なもので
それなりにいいところもある
と思いました。
プロローグにあたる
「01」章の処理も、なかなか。
でも、刑事たちの描き方が
ダメダメだと思うわけです。
ダメダメというのは、いいすぎか。
トリックやプロットと
刑事ドラマ的世界観とが
合ってないといいますか。
デッドマンの視点を中心に
書ききった方が
良かったんじゃないでしょうか。
それこそ、オビの惹句にあるように
「“死人”が推理する」趣向の話で通したら
クールですごい話になったろうに……
ちなみにオビを外した
カバー全体のイラストは以下の通り。

装画は猫将軍さん。
絵が美しいだけでなく
オビで隠れる部分まで
イラストが書かれていて
カバー全体で作品になっているのは
最近では珍しいのではないかと思ったり。
この素晴しい装幀に
中身が付いていききれてないのが
残念か、と。