
(玉田誠訳、文藝春秋、2012年6月10日発行)
台湾の出版社が主催している
島田荘司推理小説賞の
第2回受賞作です。
島田荘司推理小説賞というのは
中国語で書かれた
未発表の本格ミステリーを公募する賞です。
作者は香港在住らしく
サイモン・チェンという
英語読みが併記されています。
ある朝、駐車場の車内で目を覚ました
香港西区警察署の巡査部長・許友一は
頭痛を抱えたまま出勤すると
現在が2009年であることを示すポスターが
署内に貼られていました。
許の意識では現在は2003年のはずで
あわてて記憶を探ってみると
6年間の記憶が飛んでいることに気づきます。
そこに許と会う約束をしていた
女性雑誌記者が現われ
6年前に捜査していた事件の
解決後の関係者を取材記事を書く
協力を要請されます。
どうやら6年の内に事件が解決していたらしい。
許は女性記者と同行しながら
失われた記憶の謎を解くとともに
いつのまにか解決していた事件を
もう一度調査することになるのでした。
島田荘司は常々
21世紀の本格というものを
提唱しているのですが
本書はその島田の提唱に沿った
21世紀本格そのものという感じでした。
単に、人間の脳という
いまだ解明しきれていない領域に寄り添って
トリックを仕掛けてくるだけではなく
状況の不可思議さが
たった一言で説明できてしまうくらい
シンプルなプロットであるため
21世紀本格の提唱以前に島田が主張していた
幻想的な謎と合理的な解決という
「段差の美」が見事に決まっています。
(「美」が決まる、というのも変ですけど【^^ゞ)
そのこととも関連しますが
序章では、その最後に
許が現場に臨場した場面が描かれるのですが
その最後で被害者の女性が目を開き
「おつかれさま」と呟くという
奇妙な現象が描かれます。
許が見た幻想か、と思う間もなく
章を改めて
駐車場の場面に移るのですが
これが後半になって
きれいに解かれるのには
ちょっと感心しました。
それだけに、上記の謎が解かれたあと
さらに6年前の事件の真相が
明かされる一連の場面は
どんでん返しのためのどんでん返しに
堕してしまっている印象があります。
残り30ページほどでバタバタと推理が語られ
さらにどんでん返しを2回も重ねているため
余計そんな感じがします。
残り30ページではなく
もう少し字数を費やせば良かったのに
と思わずにはいられませんでした。
うるさくいえば
叙述上の不整合もありそうですが
最近読んだものの中では
いちばん、あっと驚かされた作品でした。
これで「いちばん」とかいうと
読書量が少ないとか
いわれてしまいそうですが(;´▽`A``
ちなみにタイトルは
デヴィッド・ボウイの曲からとられています。
その一節がエピグラフとして
冒頭に掲げられていますが
作品世界の内容と見事に対応しているあたり
細かいことですが、いいですね。