$圏外の日乘-『新本格ミステリの話をしよう』
(講談社、2012年10月3日発行)

先に紹介した『21世紀探偵小説』
いささか学術的な色合いが濃い本だとすれば
こちらは、文庫の解説や雑誌の書評に
書下しの原稿を加えた
比較的、敷居が低い一冊
といえるかもしれません。


取り上げられている作家は
綾辻行人から円居挽まで20人。

中には、プレ新本格ともいうべき、
鮎川哲也、連城三紀彦、
笠井潔、島田荘司、東野圭吾の
5作家も含まれていますが、
いわゆる脱格系の作家は一人もいません。

そこらへんにも
『21世紀探偵小説』との
スタンスの違いがはっきり出ていて
海外や日本の本格ものの古典を読んだ
いわゆる教養を背景として
その教養を逸脱しない評価軸と語り口で
作家・作品を論じていっています。

それと、文学部出身者らしい
分析スタイルが組み合わさっているのが
佳多山流クリティカル・スタイルなのです。


佳多山さんのエッセイは
しばしば作品の趣向や真犯人の正体に
言及することを特徴としています。
(もちろん、対象作品を未読の
 読者への注意書きを付しています)

というのも
作中での真犯人の描かれようを踏まえて
犯人像や犯人の行動様態に
作品のテーマが象徴的に現れている
と指摘するのが佳多山流だからなのです。

どうです、文学部出身者っぽいでしょ?(笑)


社会問題や情勢にも言及はしますが
それは作品を読み解くための材料で
社会的背景がどういう時代のコンテクストを生み
それがどういう作品を発生させたかというような
乱暴にいえば
社会学的な視点からの論考というのは
ほぼないと、いっていいです。

(ないから悪い、と
 いっているのではありません。
 念のため)

過去の遺産と比べて
こういうところが新しい趣向だとか
こういう再利用の仕方がうまいとか
そういう語り口は
ミステリ・ファンの多くが
採用していた(いる)語り口だと思います。

だから、人によっては
慣れ親しんだ感があるし、読みやすい。
そこが佳多山流の強味です。


ネタバレが多いのは
さり気に教養主義を前提とした
後進を育成しようという
先輩的な振る舞いなのではないかと
推察します。

かつて多くのミステリ・ファンは
そうやって育てられてきたものです。

本書のタイトルも
そういう意味合いが
込められているものでしょう。
(それとも植草甚一風なのかな? w)

今、そういう「教育的配慮」が
通用するかどうか分かりませんけれども
そこが若干、未読の人には
敷居が高いと思わせるかもしれません。

『21世紀探偵小説』のお固い感じとは異なり
時にユーモラスな語り口も混ぜ
「二〇〇〇」に「ダブルオー」とルビを振るような
ある種の気取りが感じられる文体が気にならなければ
手に取ってみてもいいかも。

本格ミステリを読む勘所というか
作法のようなものが身に付くと思います。


$圏外の日乘-『新本格ミステリの話をしよう』外箱と本体

前著『謎解き名作ミステリ講座』(2011)同様
スルーケースの外箱に窓があいていて
本体表紙の挿画がのぞくようになっている装丁が
ちょっとオシャレですね。