2010年に第1巻が出たあと
2011年に出た第2巻も
いちおう買ってあったんですが
未読のままでした。

今年の夏に第3巻をたまたま見つけ
続けてすぐに第4巻が出て
完結するということだったので
第4巻が出るのを手ぐすね引いて待って
発売日の9月7日に即買いしました。

で、もう一回、
以前紹介した第1巻から読み直して
ようやく最後まで読み終わりました。

$圏外の日乘-『ベル デアボリカ』2~4
(第2巻、朝日新聞出版 ASAHIコミックス、2011.3.30)
(第3巻、朝日新聞出版 ASAHIコミックス、2012.8.30)
(第4巻、朝日新聞出版 ASAHIコミックス、2012.9.30)

第4巻のオビには「ここに衝撃の完結!
この結末は、見逃せない!!」とありますが
確かに「思いもかけない」結末でした。


第2巻で印象的だったのは
「心の自由をなくす事」を
「何より恐れる」魔法使いヴァルカナルが
ツヴァスの許が戻ってきたい場所だと思った時
「自分が縛られた」と思い
それはツヴァスのせいだと思って
ツヴァスを見下したり
その命を操ったりしようとするが
ツヴァスが「束縛」しているのではなく
「自分の心が動いている」のだから
無意味な行為だったと考えるシーン(p.104)

それと、ヴァルカナルが
「私は何も失いません
 (略)
 私は誰にも支配されないし
 服従しないし 自分を与えません
 限りない自由を…
 自分の力にしてます

 それが私の力の代償ですね

 私が自分の世界を
 受入れられなくなったら…
 それが私の力の
 終わる時です」(p.118)
とツヴァスに語るシーン。

特に後者における語りは
第4巻の伏線にもなってまして
このころから最後を決めてたのかと
ちょっと驚かされます。


過去に魔法使いを擁していたことがある
デボンという国の大公に呼ばれて
ケルウォースを離れた魔法使い
ヴァルカナルが、
ケルウォースに戻ってくるところから
第2巻のお話は始まります。

メフィスの大公の側近マキアーノから
『竜の書』と対になる『星の書』がある
と言われたヴァルカナルが驚くシーンで終わる
第2巻に続く第3巻では
ヴァルカナルがケルウォースを
離れてしまったかのように思われたのですが……

第3巻は、最初の方で上の挿話の決着をつけ、
ケルウォース城への客人を
ちょっとした賭けで殺してしまうヴァルカナルに
ツヴァスの怒りが炸裂するという
印象的な挿話を挟んでから、
かつてケルウォースが所有していた鉱山を
取り戻しに行くという話の
途中までが収録されています。

ちなみに3巻には、ヴァルカナルが
デボンに滞在した時のエピソードを描いた短編
(時間軸的には1巻と2巻の間に入るもの)や
ツヴァスとチェスをやる様子を描いた短編も
入っています。

そして第4巻では、鉱山の奪回に成功したあと
ケルウォースに帰還する途上で起きた事件によって
「思いもかけない」結末が訪れるまでが描かれます。

何だか話の切り方が新聞の続き物みたいで
章にあたる Sect.(セクションの略?)を
ふたつ分で1冊にまとめてくれれば
3巻ですっきりしたと思うんですが……


これから読む人もいるかもしれないので
はっきりしたことは書きませんが
96ページのツヴァスの台詞が
すべてを語っているというか
魔法使いとは自尊心を持つ自由な心である
という、その自尊心のありようが
たいへん印象に残る話でした。

そして自由であることの栄光と苦悩と
その二つ我にあり、というのがヴァルカナルで
そうした精神の存在を描いている話である
とも思った次第です。

また、魔法使いというものはこういうもの
というふうに決めつけて対応し
あるいは思いのままに操れると考える
という人間の側のありようは
魔法使いの心を、というより
人と人との間で生じる
パワー・ゲームを描いているようにも
感じられました。

ここでいう「パワー」とは
人間関係において立ち現われる
「権力性」のようなものです。

ツヴァスは、
魔法使いはこういうものと思い
それを自然に受入れる一方で
自分の考えの筋も通す時はしっかり通す
というふうに、
支配するのではなく
畏敬の念を持って自然に、
こういう言い方をしてもいいかどうか微妙ですが
対等な存在として接するので
ヴァルカナルの自由も保障される。

ただこのお話がすごいのは
ヴァルカナルの自由が保障されることで
ヴァルカナルはある種の自由を喪失する
という言い方が正しいのかどうか、
ともあれそういう微妙な関係性を
見事に描き切っているところでしょうか。

その意味において、確かにこれは
「シリアス」という言葉を冠するのに
ふさわしい話だと思った次第です。


感想ひとつ書くにも
やたらと時間がかかる
という意味でも、難しさというか
「シリアス」さの度合いの高さを
思い知らされました……(´・ω・`)