今年の初めに出た本ですが
ようやく昨日、読み終わりました。

(1999/田中千春訳、創元推理文庫、2012.1.27)
フレッド・ヴァルガスは
フランスの女性作家です。
『裏返しの男』は
パリ第五区の警察署長を務める
アダムスベルグ警視シリーズの第2作ですが
主な舞台はパリではなく
アルプス山中の小村とその周辺です。
その村で、羊が何頭も殺される
という事件が起きます。
その噛み痕は通常の狼よりも巨大で
そのため狼男の仕業ではないか
という噂が流れます。
そして、とうとう人間の被害者が出ます。
被害者の養子である黒人青年と
被害者の牧場に雇われていた羊飼いの老人が
村に滞在中の音楽家で
修理屋もやっている女性に頼み込んで
羊運搬用のトラックに乗り込み
人狼と目される男を追跡する
という話です、ざっくりまとめると。
題名の「裏返しの男」というのは狼男のことで
人間体のときは無毛で
体毛は内側に生えている。
夜になると(狼男になると)裏返って
体毛が生えている内側の部分が外側に出てくる
という話に由来してます(p.65 参照)。
やあ、そういう伝承が
ほんとにあるのかどうか、知りませんが
内側が裏返って外側になるという説明は
初めて聞きましたねえ。
凸凹トリオがたどる
狼男が残していった地図のルート上で
次々と人が殺されます(もちろん羊も)。
追跡者たちは
これでは後追いになるばかりであり
警察の協力がないと無理だと思うようになる。
そして、こんな空想的な事件を
真剣に取り上げる警官がいるものか
という話になった時に
女性作曲家が思い出すのが
かつて恋人だったアダムスベルグなのでした。
解説で若竹七海が
本書については、新刊が出たこと、
アダムスベルグものであること、
前作『青いチョークの男』を
上回る面白さであること、
「最高、ステキ、超ハッピー!」
と、これだけいえば充分だと書いています。
だからここで贅言を費やす必要はないのですが
でも書いちゃうと(苦笑)
現代ミステリなのに
狼男が犯した殺人を扱っている
そのプロット自体が
ぶっとんでいるのはもちろんですが、
それよりも
狼男を追うロード・ムーヴィー風の中盤、
凸凹トリオを形成する各キャラクターの
個性を楽しむ話だと思って読んだ方が
楽しめるのではないかと思います。
最初の被害者の養子である黒人青年と
被害者との出会いのきっかけや
どういうふうに育てられたか
といういきさつを読むだけで
幻想的というか、詩的というか、童話的というか
つかみどころのない雰囲気が漂うわけですが
それに加えて
凸凹トリオのもう一人である
老羊飼いが繰り返す決まり文句が
珍妙な雰囲気を醸し出している。
ここらへん、言葉で説明するのは難しく
説明しようとすると長くなるから
読んでみてよ、というしかないのですね(藁
アダムスベルグが凸凹トリオに加わると
それまで茫洋としていた話が
転がり出すという感じはするのですけど
アダムスベルグも
論理的に推理するというよりは
茫洋としたイメージを整理せずに頭に漂わせて
いつのまにか真相に到達するというタイプなので
ロード・ムーヴィー風の中盤に出来上がった
独特の雰囲気が崩れないまま
最後の解決に向かいます。
これをいうと
楽しみを削ぐかもしれませんけど
フレッド・ヴァルガスは
いわゆる本格ミステリの書き手というべきでして
最後にはすべて合理的に解決され
伏線もきちんと張られていたことが
明らかになります。
こんな話どうやって解決するんだ
と思う人がいるかもしれないし
下手に辻褄を合わせたら
つまらなくなるんじゃないの
と思う人がいるかもしれませんが
自分的には
それなりに感心して読み終えました。
ところで、つい先日
(奥付上は本日ですが)
フレッド・ヴァルガスの
新しい翻訳が出ました。
それが下の『彼の個人的な運命』です。

(1997/藤田真理子訳、創元推理文庫、2012.8.31)
こちらは、ひとつの館に同居する
三人の歴史学者を狂言回しとするシリーズで
〈三聖人〉シリーズといわれています。
本書はその第3作目。
実は今日、読み終えたばかり。
(自分でいうのもなんですが、熱心だねえw)
パリを舞台とする
シリアルキラーものですが
こちらも、容疑者と目されている
精神遅滞者の青年の語り口が
独特の雰囲気を出しています。
ヴァルガスには
奇妙な喋りかたに対する
こだわりのようなものが
あるのかもしれません。
今までに訳された作品も
そうだったかどうかは
ちょっと覚えてませんけど(^^ゞ
『彼の個人的な運命』の方は
『裏返しの男』に比べれば
真っ当な、というか一般的な
現代ミステリといえましょうか。
もちろんこちらもキャラが変わっていて
たとえば探偵役を務める
元内務省捜査官は
ひきがえるをペットにしていて
捜査中もポケットに入れるなどして
連れ回しているという設定。
そして「三聖人」といわれている三人も
どこか浮世離れしているというか
世間ずれしていない人間たちで
そこに精神遅滞者の青年が加わって
やっぱり独特の雰囲気が出ているわけです。
そしてこちらも、ちゃんと最後に
意外な犯人が用意されているし
伏線もきちんと張られているのです。
で、どっちがいいの
と聞かれたら、ちょっと悩んで
『裏返しの男』と答えるかもしれません(藁
それにしても、一年のうちに
フレッド・ヴァルガスが2冊も出るなんて
これがいちばんの意外だったことですね。
だからびっくりして
まとめて読んじゃった次第なのでした( ̄▽ ̄;)
ようやく昨日、読み終わりました。

(1999/田中千春訳、創元推理文庫、2012.1.27)
フレッド・ヴァルガスは
フランスの女性作家です。
『裏返しの男』は
パリ第五区の警察署長を務める
アダムスベルグ警視シリーズの第2作ですが
主な舞台はパリではなく
アルプス山中の小村とその周辺です。
その村で、羊が何頭も殺される
という事件が起きます。
その噛み痕は通常の狼よりも巨大で
そのため狼男の仕業ではないか
という噂が流れます。
そして、とうとう人間の被害者が出ます。
被害者の養子である黒人青年と
被害者の牧場に雇われていた羊飼いの老人が
村に滞在中の音楽家で
修理屋もやっている女性に頼み込んで
羊運搬用のトラックに乗り込み
人狼と目される男を追跡する
という話です、ざっくりまとめると。
題名の「裏返しの男」というのは狼男のことで
人間体のときは無毛で
体毛は内側に生えている。
夜になると(狼男になると)裏返って
体毛が生えている内側の部分が外側に出てくる
という話に由来してます(p.65 参照)。
やあ、そういう伝承が
ほんとにあるのかどうか、知りませんが
内側が裏返って外側になるという説明は
初めて聞きましたねえ。
凸凹トリオがたどる
狼男が残していった地図のルート上で
次々と人が殺されます(もちろん羊も)。
追跡者たちは
これでは後追いになるばかりであり
警察の協力がないと無理だと思うようになる。
そして、こんな空想的な事件を
真剣に取り上げる警官がいるものか
という話になった時に
女性作曲家が思い出すのが
かつて恋人だったアダムスベルグなのでした。
解説で若竹七海が
本書については、新刊が出たこと、
アダムスベルグものであること、
前作『青いチョークの男』を
上回る面白さであること、
「最高、ステキ、超ハッピー!」
と、これだけいえば充分だと書いています。
だからここで贅言を費やす必要はないのですが
でも書いちゃうと(苦笑)
現代ミステリなのに
狼男が犯した殺人を扱っている
そのプロット自体が
ぶっとんでいるのはもちろんですが、
それよりも
狼男を追うロード・ムーヴィー風の中盤、
凸凹トリオを形成する各キャラクターの
個性を楽しむ話だと思って読んだ方が
楽しめるのではないかと思います。
最初の被害者の養子である黒人青年と
被害者との出会いのきっかけや
どういうふうに育てられたか
といういきさつを読むだけで
幻想的というか、詩的というか、童話的というか
つかみどころのない雰囲気が漂うわけですが
それに加えて
凸凹トリオのもう一人である
老羊飼いが繰り返す決まり文句が
珍妙な雰囲気を醸し出している。
ここらへん、言葉で説明するのは難しく
説明しようとすると長くなるから
読んでみてよ、というしかないのですね(藁
アダムスベルグが凸凹トリオに加わると
それまで茫洋としていた話が
転がり出すという感じはするのですけど
アダムスベルグも
論理的に推理するというよりは
茫洋としたイメージを整理せずに頭に漂わせて
いつのまにか真相に到達するというタイプなので
ロード・ムーヴィー風の中盤に出来上がった
独特の雰囲気が崩れないまま
最後の解決に向かいます。
これをいうと
楽しみを削ぐかもしれませんけど
フレッド・ヴァルガスは
いわゆる本格ミステリの書き手というべきでして
最後にはすべて合理的に解決され
伏線もきちんと張られていたことが
明らかになります。
こんな話どうやって解決するんだ
と思う人がいるかもしれないし
下手に辻褄を合わせたら
つまらなくなるんじゃないの
と思う人がいるかもしれませんが
自分的には
それなりに感心して読み終えました。
ところで、つい先日
(奥付上は本日ですが)
フレッド・ヴァルガスの
新しい翻訳が出ました。
それが下の『彼の個人的な運命』です。

(1997/藤田真理子訳、創元推理文庫、2012.8.31)
こちらは、ひとつの館に同居する
三人の歴史学者を狂言回しとするシリーズで
〈三聖人〉シリーズといわれています。
本書はその第3作目。
実は今日、読み終えたばかり。
(自分でいうのもなんですが、熱心だねえw)
パリを舞台とする
シリアルキラーものですが
こちらも、容疑者と目されている
精神遅滞者の青年の語り口が
独特の雰囲気を出しています。
ヴァルガスには
奇妙な喋りかたに対する
こだわりのようなものが
あるのかもしれません。
今までに訳された作品も
そうだったかどうかは
ちょっと覚えてませんけど(^^ゞ
『彼の個人的な運命』の方は
『裏返しの男』に比べれば
真っ当な、というか一般的な
現代ミステリといえましょうか。
もちろんこちらもキャラが変わっていて
たとえば探偵役を務める
元内務省捜査官は
ひきがえるをペットにしていて
捜査中もポケットに入れるなどして
連れ回しているという設定。
そして「三聖人」といわれている三人も
どこか浮世離れしているというか
世間ずれしていない人間たちで
そこに精神遅滞者の青年が加わって
やっぱり独特の雰囲気が出ているわけです。
そしてこちらも、ちゃんと最後に
意外な犯人が用意されているし
伏線もきちんと張られているのです。
で、どっちがいいの
と聞かれたら、ちょっと悩んで
『裏返しの男』と答えるかもしれません(藁
それにしても、一年のうちに
フレッド・ヴァルガスが2冊も出るなんて
これがいちばんの意外だったことですね。
だからびっくりして
まとめて読んじゃった次第なのでした( ̄▽ ̄;)