$圏外の日乘-『歪笑小説』
(集英社文庫、2012年1月25日発行)

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を読んだあとで、
まあ、買ってあるし、
文庫だからハンディだし、
奈央ちゃんのブログへのレスでふれたし、
とか考えて手に取った本でしたが、
ハマるハマる(藁

おとといの土曜日、
出かける用事があったので
これを持って出て、電車の中で読み始めて、
帰ってきてブログをアップしてから
寝床で読んでたら寝られなくなって、
あっという間に読んでしまいました。


〈笑〉シリーズというのは、
先日出た『東野圭吾公式ガイド』

$圏外の日乘-『東野圭吾公式ガイド』
(講談社文庫、2012.2.15)

に載っていた
読者1万人が選んだ人気ランキングでも、
76作中すべて50位以下という
残念なw結果が出たシリーズです。

やっぱみんな
小説読んで感動したいんかなあ
という印象を受けたものですが、
それはともかく、
〈笑〉シリーズの中でも
文壇や業界の諸事情を笑いのめした
『黒笑小説』(2005)中の4作品や
今回の『歪笑小説』なんかは、
小説好きの中でも
業界についてある程度知っている人なら
(この作家はあの人がモデルかなー
 と作中の名前から想像できる人ならw)
バカウケ間違いなしの快作です。

作家を目指している人にウケるかどうかは
微妙かもしれませんけどね。


『黒笑小説』では13話中4話だけ
(「もうひとつの助走」「線香花火」
 「過去の人」「選考会」)
文壇ものだったわけですが、
今回の『歪笑小説』は
収録作すべてが文壇ものです。

だから、というわけでもないのでしょうが、
主要若手作家2人、主要編集者3人が
ある作品で主役を張ったり、
別の作品に顔を出したりしていて、
一種の変則的なシリーズものになっています。

最初の方はまあ、
ベタな笑いの話が多かったんですが、
だんだんと、ちょっといい話も混ざってきて、
単なるギャグではない
感動すら覚えさせる作品も入っています。


いやあ、トンデモ・ハードボイルド作家の
熱海圭介が、終わり近くの「戦略」で
あんなに深みのあるキャラに変わるとは
思いもよりませんでした。

「夢の映像化」と「戦略」の
オチの落差にはびっくりしますよ~。
「戦略」の最後はステキすぎます。

これは一種の、創作者の夢かもしませんね。


また、
本格不条理ミステリ(って何なんだw)
でデビューした
唐傘ザンゲが登場する「序の口」は、
ああ、いいなあと感じさせる話だし、
そのザンゲが絡む「職業、小説家」に出てくる
繊維会社勤務のサラリーマン視点の話は
もう、涙なくしては読めないです。


毒のある笑いの話がいつの間にか
クセのあるハートウォーミングな話になる場合が
後半になるほど多く、これには脱帽しました。

「文学賞創設」なんて
市井もの(?)みたいなところに着地するし。


「最終候補」は微妙な話で、
人によっては感動するだろうし、
読みようによっては
すごくイジワルな話です。

薹の立った小説家志望の人が読んだら
いろんな意味で泣けちゃうかもなあ。

「小説誌」も微妙。
よく書けるなあ、こういう話(苦笑)


そして、最後の「巻末広告」。
これも作者によるフィクションでして、
文庫本の巻末によくある
既刊案内ページのパロディです。
作中に出てくる作家の本の広告が
載っているのですが、
『歪笑小説』をまだ読んでなくて
これから読むという人は、
(そういう人はこのブログの記事を
 ここまで読まないかもしれないけど)
ぜひ、全編を読み終わってから
最後に目を通してください。

もちろん、架空の小説の
いかにもな内容紹介にも笑えるのですが、
その紹介文のある一節が
本編の小説の
オチにもなっている場合がありまして、
この趣向には心底感心しました。

こういう仕掛けには
文句なしにカンドーしてしまう
タチなのです、自分は(苦笑)


上にも書いたように、
1万人の読者が選んだ人気ランキングの結果は
今ひとつなのですし、
たぶん多くの読者は『ナミヤ雑貨店』の方が
好みではないかと思いますが、
自分としては、『ナミヤ雑貨店』よりも
こちらの方を支持したいと思う次第です(^^ゞ