$圏外の日乘-『シャーロッキアン!』1
(双葉社 ACTION COMICS、2011.2.28)

シャーロッキアン
(シャーロキアンとも表記します。以下そっちで)
というのは、シャーロック・ホームズの小説を
フィクションとして捉えるのではなく、
ホームズは実在の人物であり
ワトスン博士の記述はすべて事実である
(コナン・ドイルは出版代理人に過ぎない)
という前提のもとに、
ホームズ・シリーズを読み、
研究して楽しむ人たちのことをいいます。

そこそこ通なミステリ・ファンにとっては
おなじみの存在なのですが、
一般的な知名度は、どうなんでしょうか。

そのシャーロキアンを登場させたまんがが、
青年誌で連載されているとは驚きでした。

雑誌『ミステリマガジン』の書評欄で
紹介されているのを読んで買っておいたものですが、
例によって買ったまま積ん読状態だったものを
先ごろ第2巻が出ましたので
思い立って読んでみた次第です。

大学で論理学を講じている
車 路久(くるま・みちひさ)教授と、
教授の講義を受講していて
ふとしたことで親しくなった女子大生
原田愛里との関係を軸に、
彼らが巻き込まれていく事件と
彼らの関係の一進一退が描かれる作品です。

第1巻には、教授に誘われて
シャーロキアンの会食に出席した愛里が
切り裂きジャックの正体に迫る第3話や、
ワトスン夫人が夫をジョンではなく
ジェームズと呼ぶ謎に絡めた第4話、
「最後の事件」以降、
ホームズの性格が変わったことや、
続く「空家の冒険」の矛盾をめぐる
第7話などがが面白かったです。

語られざる事件
(ワトスンが事件の名前だけ出して
小説化していないもの)として有名な
ジェイムズ・フィリモア氏の失踪をモチーフにした
第5~6話は、いわゆる
〈日常の謎〉派のミステリとしても
通用するような出来映えでした。

というふうに書いちゃうと、
全9話収録ですので
そのほとんどが面白かったことになるわけで、
これはすごいアベレージですね。

殊に、市井の人々の人生と絡めた
4話と7話は絶品だと思った次第です。

特に第4話は、自分がお気に入りの
イギリスの女性作家
ドロシー・L・セイヤーズの論文を基にしていて、
これたしか昔、読んでいるはずなんですけど、
こういうふうにまんが化されると
なるほどなーという感じで、
セイヤーズの論考に対する
こちらの見る目が変わってきますし、
もう一回、読んでみようかなあと思わせます。

それって、すごいことですよ。

絵柄は、個人的には
あまり好みではないのですが、
これはおススメかもなあ。



●訂正(3月21日、1:20ごろの)

ワトスン夫人が「ジョームズ」と呼ぶ
とか書いてましたので、訂正しときました。
正しくは「ジェームズ」です。