$圏外の日乘-『破壊者』
(1998/成川裕子訳、創元推理文庫、2011.12.22)

ミネット・ウォルターズはイギリスの女性作家で
デビュー作の『氷の家』(1992)以来、
高いクオリティの作品を
安定して発表し続けています。

自分が読み始めたのは
第3作『鉄の枷』(1994)からですが、
それ以来、新作が出るたびに手に取っており、
いまだ外れ(駄作)というものがありません。

久しぶりに出た本書は
なぜか訳し残されていた第6作、
1998年の作品です。


イギリス南西部の入江で
女性の全裸死体が発見されます。
検屍の結果、性的暴行を受けたあと海に投棄され
岸に泳ぎ着くまでに溺死したことが判明。

一方そのころ、迷子の三歳女児が
南西部の都市で保護されました。
女児の父親が名乗り出ることで
海岸で発見された女性の
身元も明らかとなります。

警察の捜査によって
被害者は船遊びが嫌いであることが
分かるに至って、
そんな被害者が溺死したのは、なぜなのか。
また、被害者の娘はなぜ殺されずに
路上に放置されたのか、
といった謎が浮上してきます。


たったこれだけの設定なのですが、
捜査の過程で、さまざまな証言を通して
被害者のキャラクターが
だんだんと明らかとなっていき、
かと思えば、二転三転して、
たった2人しか容疑者がいないのに
どちらか一方が犯人だと
なかなか絞りきれない。

そういう、被害者のキャラが
明らかになる面白さがあり、
(『ヒルダよ眠れ』とかを連想させ、
 イギリス・ミステリのお家芸という感じ)
被害者に関わった人々の反応、
特に夫の心情が、ある意味
婚活ブームの今だからこそ
いろいろ考えさせられる面白さがあって、
中盤から後半にかけては
一気に読ませられてしまいました。

地元巡査の誠実かつ堅実なキャラクターが良く、
彼と、落剥した美人との絡みなどが
ストーリーの彩りとなって
これもなかなかよろしい。


本書のモチーフはレイプですが、
(もちろん、批判的にです。念のため)
アメリカの一部のミステリに見られるような
直接的に凄惨な描写は、もちろんありません。
(露悪的な表現は多少ありますが)

海を背景とする事件なので
どことやらF・W・クロフツを
連想させるところもあります。
でも、いわゆるトリックらしいトリック
なーんていうのも、もちろんありません。

いろいろな人の思惑が絡まって
不幸な結果につながったということが
捜査の過程でだんだんと明らかになっていき
(その明らかにされていく過程というか
 手がかりが見つかっていく展開が巧い)
人間関係の絵柄が何度も変わる様が
納得いくように書かれています。

真相はきわめて単純
かつ三面記事並み
ないし昼メロ並みのネタなのですが、
それをこれだけ読み応えのある
謎解きミステリに仕立て上げる筆力は
さすがだとしかいいようがない。感服しました。

捜査陣を除く関係者は
実に現代的、いるよなあこんな奴
という感じのイヤな奴
情けない奴ばかりですが(苦笑)
地元巡査と絡む零落した母娘は
生活を立て直すていの清々しさがあって
そちらは良かったですね。

おススメです。