またまた
買っておいたけど読んでなかった(^^;ゞ
ゴッデンの本が出てきたので
いい機会ですから、感想を書いときます。

$圏外の日乘-『元気なポケット人形』
(1955/猪熊葉子訳、岩波書店、1979.3.15)

「岩波ようねんぶんこ」という
小学1~3年生向けのシリーズの第2巻です。

定価720円、古書価500円。
たぶん、いつだかどこかの古本屋で
見つけたものだろうと思います。

1991年に再刊されたようですが、
どういう形態で再刊されたのかは知りません。

原題は Impunity Jane で
手許の辞書によると、
impunity というのは
「害を受けないこと」
という意味のようです。
邦訳書8~9ページのやりとりからすると、
落としても「壊れない」という
店員の説明をふまえているようですから、
意訳すれば「不死身のジェイン」
というようなタイトルになるでしょう。


「かたいせともの」で出来た
10センチほどの女の子の人形が
ビクトリア朝の時代にある女の子に買われ
それからいろんな女の子の手から手へ
わたっていくのですが、
人形のジェインは冒険心にあふれているのに
持ち主が女の子だから、ということもあり
ドールハウスの外に出られず、
冒険心を満たせないまま、
50年の月日が過ぎていきます。

そしてある日、持ち主の女の子の
従兄弟の男の子がジェインに感応して
ドールハウスから連れ出してくれる
というお話です。

これを、男の子のように生きたいと望む
女の子の話、という寓話として読むことも
おそらくは可能でしょうが、
それだと、ちょっと
つまらないような気もします。

ジェインが男の子やその友達と
さまざまな冒険をする場面の描写は
実に活き活きとしていて
男の子のように生きたい女の子
というモチーフを
強く感じさせるのですけどね。


「不死身のジェイン」に
彼女の望み通りの人生を与えたのは
男の子ですが、
それは人形を従姉妹から盗むことで
可能になったことであり、
後に男の子はそれを
アンフェアな行為として
悩むことになります。

ジェインを売らないかと仲間に言われて
自分のものだから売らないと答えるのですが、
もともと自分のものではなく
盗んだものだったので、
仲間内で嘘をついたことを気に病むわけです。

ジェインは元のドールハウスに
戻りたくないのですが、
自分の欲望のために
男の子を精神的に苦しめることは
フェアではないと思っていて、
どうすればいいか悩んでしまう。

個人的には、そこが読みどころといえば
読みどころという感じでしょうか。

ただ、結局どうなるのか、その決着は
ややご都合主義的に感じられもします。
持ち主の女の子の性格をふまえていて
書き方としては巧いし、
児童文学としては
その決着でいいのかもしれませんが、
『人形の家』『ねずみ女房』の後だけに
自分的には物足りなかったです。


その他の読みどころとしては、
人形ジェインを盗む場面で
男の子の従姉妹が
「いかけや、したてや、兵隊、船乗り。
 金もち、びんぼうにん、こじき、どろぼう」
 Tinker, Tailor, Soldier, Sailor,
 Rich man, Poor man, Beggar man, Thief.
とマザーグースを歌っていて
「どろぼう」と歌った時に盗む、というあたり、
小説として書き方が巧いと
いえなくもないのですがね。
(訳註でも解説でもふれてませんけど
 まあ「ようねんぶんこ」だしねw)

あと50年の間の
女の子の風俗の変遷を偲ばせるのも
面白かったです。


なお本作品は後に
『ポケットのジェーン』という邦題で
福武書店から新訳が出ているようです。
(久慈美貴訳。1990年1月刊)

そちらは持っていませんが、
新しい訳だと、どう訳しているのか
気になる箇所もありましたので、
機会があれば、ちょっと見てみたいかも。