
(2008/吉澤康子訳、創元推理文庫、2011.5.31)
ヘンリー2世が統治していた
イギリスのプランタジネット朝を舞台に、
(ヘンリー2世の在位は1154~1189年)
イタリアはサレルノ出身の
女性法医学者アデリアを主人公とした
歴史ミステリの第2作です。
第1作の『エルサレムから来た悪魔』(2007)は
英国推理作家協会(CWA)の
最優秀歴史ミステリ賞を受賞した作品で、
子どもばかりを殺す連続殺人鬼もののようですが、
震災で本が崩れて上巻が行方不明になってしまい、
(邦訳は上下2巻で刊行されました)
読めないまま、シリーズ第2作を手に取りました。
とはいえ、前作の犯人が
バラされていたりするわけでもないので、
単発で読んでも何の問題もありませんでした。
前作の活躍によって
ヘンリー2世に寵愛されたアデリアは、
祖国へ帰る許しを得られないまま
イングランドの沼沢地で
ひっそりと暮らしていましたが、
ヘンリー2世の愛妾が何者かに毒殺され、
その真相を探る命を受け、
厳寒の地へとアデリアが赴くという話です。
アデリアが私生児を生むきっかけとなった、
今は司教となった男性と
再び行動を共にすることとなり、
いろいろと心千々に乱れるアデリアですが、
死体を前にすると解剖学者としての
知的好奇心が頭をもたげる。
ただ、読んでいると、
アデリアの千々に乱れる心の方がメインで、
知的好奇心の方は今イチかなあという印象です。
イタリア系の血が入っているせいか
感情の起伏が、やや激しい感じもされ。
そういえば
アレクシア女史もイタリア系でしたが、
こういうキャラが、今
イギリスで流行ってるんでしょうか(苦笑)
もうちょっとクールなキャラの方が
個人的には好みですね。
題名の「死の迷宮」というのは、
ヘンリー2世の愛妾ロザムンドが住む城に
付属している迷路のことなんですが、
『ソッキーズ フロンティアクエスト』の
迷路タウンの回をご覧の方はお分かりの通り(藁
迷路の通り抜け方自体に謎はありませんし、
迷路という題材が単なる題材どまりで、
上手く活かされているとも思えません。
ヘンリー2世の正妻が介入してきて
話が展開するあたりは、
ミステリとしての面白さより
歴史小説としての面白さでしょう。
いちおう、ロザムンド暗殺を謀った
刺客の意外な正体というサプライズは
用意されてますが、
(そして伏線も張られてますが)
ミステリの要素より
歴史小説の要素の方で
楽しむ小説だと思います。
とはいえ、プランタジネット朝を背景とした
歴史小説を楽しめる人って
どれくらい、いるんでしょう???
(ちょっと偏見ありw)
愛妾ロザムンドが暗殺され、
現王妃が裏で糸を引いているのではないか
という噂が流れ、
内戦が起きるのではないかと憂慮されるのですが、
ヘンリー2世とエレアノール王妃が
いよいよ対面した時のやりとりは、
実に滋味あふれる良い場面でした。
あと、印象的だったのは、
ゴッドストウ女子修道院長が
アデリアと話す場面です。
現在の(作中の現在の)
女性に差別的な現世について
話が及ぶ場面ですが、
「偽善とは善を承認することであり、
それ自体、社会の進化の証(あかし)なのです」
(p.411)
という台詞は、深いですね。
なお、訳者あとがきによれば、
作者のアリアナ・フランクリンは
今年の1月に亡くなったそうです。
アデリア・シリーズはあと2作
残されたようですが、
残りの翻訳も出るでしょうか。