$圏外の日乘-ニック・ピゾラット『逃亡のガルヴェストン』
(2010/東野さやか訳、ハヤカワ・ミステリ、2011.5.15)

〈ポケミス新世代作家〉
連続刊行シリーズの3冊目です。

1冊目の『二流小説家』
2冊目の『黄昏に眠る秋』に比べると
一気に薄くなって270ページほど。

『二流小説家』とともに、
今年のアメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)の
新人賞の候補にあがってましたが、
残念ながら両作品とも受賞を逃してしまいました。

『二流小説家』が逃したのは残念ですが、
『逃亡のガルヴェストン』が逃したのは、
まあ、別にいいかな、と(藁

アップした写真でも分かる通り、オビに
デニス・ルヘイン絶賛と書いてありますが
(ちなみに『ムーンライト・マイル』の作者と
 同一人物ですw
 角川での表記が「レヘイン」
 早川での表記が「ルヘイン」
 原綴は Lehane )
『ムーンライト・マイル』のような小説を書いた
レヘインとも思えませんな。

ここまでの書きっぷりでお分かりの通り、
自分的にはこの小説、好きにはなれません。


マフィアの取り立て屋をやっていた主人公が
胸の気泡がガンだと診断された日に、
ボスの命令で仕事に出かけることになる。
ところがそこで待ち伏せにあい、
捕まっていた若い娼婦を助けて
命からがら逃げ出した主人公は、
少女とともに逃亡を図ることになる
……という出だしです。

題名にあるガルヴェストンというのは
逃亡先の土地の名前です。

まあ、典型的な犯罪小説ですね。
ノワールといってもいいかもしれない。

途中で20年後の章が挟まり、
今では犬とともに暮らす主人公が描かれます。
留守中に強面の男が訪ねてきて、
波乱を予想させるところで
また最初の章に戻る、という書き方をしていて、
20年の間に何が起きたのか
という謎で読み手の興味を引きますが、
それはミステリの謎とは違う興味ですからねえ。


『ムーンライト・マイル』より先に
読み終えましたが、読み終わった途端、
ぐだぐだな話だと思いました。

ルヘインが誉めているので
どうしても比べてしまいますが、
『ムーンライト・マイル』のパトリックに比べると
本書の主人公ロイ・ケイデイは
しのぎを削る場面でのタフさは感じられても、
へなちょこ野郎としか思えない。

特に印象に残っているのは
149ページから10ページほどの部分、
ある記事を読んで
少女娼婦と一緒にいるとヤバいと思って
若い頃に付き合っていた女の許を
訪れる場面です。

それまでは主人公ロイの視点から
当の女との思い出が書かれていたので、
無茶やった若いころの、
だからこそ
輝いている思い出だったんですが、
今は結婚している女と話している内に
その思い出が独りよがりなものであることに
気づかされてしまいます。

「あなたが覚えてるのは
 自分に都合のいいことばかり」(p.157)
という言葉から始まる女の台詞は、
中年男性の独りよがりを暴いて痛烈です。

そういう目にあって、
少女娼婦の元に戻るという流れは、
ショボさの極みで、
そういうダメ男の小説が読みたい人
好きな人には、おススメ
ということになるのかなあ。


読んでいて、
書き手がダメ男に共感しているのか、
突き放しているのか、
今ひとつ分からないのですが、
(157ページ以下の流れからは
 突き放しているような気がしなくもない)
これをMWAの候補にあげた選考委員の感覚も
よく分からないというか、
ガンを宣告された中年男の自己憐憫に
アテられているとしか思えないのだけれども。


ちなみに20年後の台風の日に
ロイはある人物に過去を語りますけど、
この選択はいかがなものでしょうか……。