
(2010/鎌田三平訳、角川文庫、2011.4.25)
ニッキ・フレンチの『生還』と
同時刊行された本です。
角川文庫で翻訳ミステリの新刊が
同じ月に二冊出たことにもびっくりしましたが、
その内の一冊が、
デニス・レヘインの私立探偵もののシリーズの新刊
というのにも、びっくりさせられました。
ニッキ・フレンチも懐かしいけど、
レヘインのパトリック&アンジー・シリーズも
懐かしい。
前に出たシリーズ第5作
『雨に祈りを』(1999)は
翻訳されたのは2002年のこと。
だからかれこれ9年ぶりになりますか。
シリーズ第1作は『スコッチに涙を託して』
(1994)で、邦訳は1999年のこと。
クライマックスは、かなり暴力的にだなあ
という印象が残っていて、
その作品世界には馴染めないところもあり、
第2作の『闇よ、我が手を取りたまえ』
(1996/邦訳は2000年)なんて、
あんまり感心しないなあ、とか思いつつ、
わりと律儀に読んできてました。
(1~2冊、落としてるかもしれませんけど【苦笑】)
今回の『ムーンライト・マイル』で
ついにシリーズが完結します。
お話はシリーズ第4作
『愛しき者はすべて去りゆく』
(1998/邦訳2001)の続編、
というか、同じ登場人物が出てきます。
でも前作を読まなくとも大丈夫。
まあ、前作のネタはバラされてますが、
それが気になる人は読んでいてくださいな。
自分は前作のストーリー、忘れてましたけど、
気にしないで読んでみました。
(どうせしばらくしたら、忘れます。たぶんw)
かつて、誘拐された4歳の少女の
行方を突き止めたパトリック。
その少女の実母はヤク中で、
前科者ばかりに惹かれる、
親としての自覚がまったくない女。
見つけた少女は、そのままでいれば
愛され、幸せな生活を送ったかもしれない。
それでもパトリックは少女を
駄目な実母の許に戻すという選択をします。
そのために、善意ある人々が
罪に問われ、苦しむという結果を招きますが、
パトリックもまた、その決断を気に病むことがある
という状況で、その事件から12年後のある日、
当時4歳の少女が再び失踪したと知らされます。
パトリックは、今では
パートナーのアンジーとの間に娘ができ、
大手探偵社の契約社員として働いています。
かつての事務所は立ち退かされ、
社会保険など月々の支払いに終われる毎日。
契約社員としてそれなりの成果を上げれば
正社員として雇われるかもしれない。
アンジーは夜学に通って勉強中です。
そんな日々の中、
今ではハイティーンになった
少女の失踪を知らされ、
ある意味、決着をつけるために
事件に関与していく、という話です。
ささやかな家庭を築きながらも、
貧乏暮らしに追われ
年を取ったことをかこつパトリックですが、
それでもユーモアは忘れず、
時として若いころのような
無茶をしたりもする様子に、
たちまち引き込まれてしまいました(^^ゞ
仕事のため、家族のために
妥協しなくてはいけないこともあるんだけど、
やっぱり妥協できないところは妥協せず、
かといって意地になったり
ヤケになったりしない
パトリックのありようは、
ひとつの理想的な年のとり方なんでしょう。
アンジーとの関係も、その描写も
練れた感じでいいですね。
書きようによっては嫌味になりかねませんが、
非常にバランスよく書けてて、好意的に読めました。
ほんと、第1作のころから比べたら
キャラの違いにびっくりですが、
若いころの雰囲気も残しているところがいいです。
ミステリとしてのメイン・プロットは
そうくるか~と思いつつも、まあ、そこそこ。
私立探偵小説らしい
関係者を巡礼して話を聞くシーンも、
いろんなキャラに出会えて面白いです。
タイトル(原題も同じ)は
ローリング・ストーンズのアルバム
『スティッキー・フィンガーズ』(1971)に
入っている曲だそうです。
本の最初に歌詞の一部が
エピグラフとして引用されています。
ロックは詳しくないので
曲そのもののイメージは分かりませんが、
最後まで読むと、引用された歌詞から
しみじみとした味わいが感じられてきます。
第4作の後日譚という点がネックですが、
これは、おススメの1冊ですかね~。