
(2003/務台夏子訳、角川文庫、2011.4.25)
やっと時間がとれて、
買っておいた翻訳ものの新刊を1冊
読むことができました。
それにしても、ニッキ・フレンチ、懐かしい!
デビュー作の『メモリー・ゲーム』(1997)が
翻訳されたのは1998年のこと。
その後の
『記憶の家で眠る少女』(1998/邦訳2000)
『優しく殺して』(1999/邦訳2001)
までは、付き合った(読んだ)記憶があるけれど、
『素顔の裏まで』(2000/邦訳2002)は
買った記憶も読んだ記憶もないです。
それ以来の翻訳で、実に9年ぶり(!)
偽りの記憶症候群をテーマとした
『メモリー・ゲーム』は、
かったるい話だなあと思った記憶があります。
『記憶の家で眠る少女』は
それよりは面白かった気はするのだけれど、
ストーリーはまったく覚えてない(^^ゞ
『優しく殺して』も凡庸だと思った記憶があって、
だからその次のは読まなかったのかな?
で、久しぶりに訳された『生還』ですが、
これは面白かったです。
25歳のOLが監禁されている場面から始まります。
監禁者は見知らぬ謎の男で、
70ページほど、監禁される恐怖を描いた後、
ヒロインは脱出を果たし、保護される。
そこまでが第一部です。
拉致された時に受けた傷が原因で
何者に、どこで、拉致され、監禁されたのかが
まったく思い出せない。
そのために拉致監禁を信じてもらえず
すべてが妄想じゃないかと思われてしまう。
そして病院を退院することになるまでが第二部で、
それがやっぱり70ページほど。
残りの第三部で、
犯人の再襲撃を逃れるために
ヒロインは失われた過去を探し始める、
という構成です。
タイプとしては
コーネル・ウールリッチとかが書きそうな
あるいはヒッチコックとかが撮りそうな
サスペンスものなんですが、
そう書くとありふれている感じがされて
どこがどう面白いのか
説明するのが難しい。
犯人を突き止めたり
拉致監禁場所を突き止めたりする
推理の面白さで読ませる話ではありません。
だからそういうものは期待しませんように。
ですから、そうですね、やっぱり
自分自身を取り戻していく
ヒロインの彷徨と軌跡で読ませる話で
そこが面白い、という感じでしょうか。
最後の最後で描かれる、
自分を取り戻す契機となる出来事が、
ミステリでいうところのサプライズとは
違うんだけど、
とにかく印象的でした。
邦題は魅力に乏しいんですが、
こう名づけたくなる気持ちも分からなくはない。
でもやっぱり原題通り
「生けるものの地」Land of the Living
と訳した方が、いいと思いますけどね。
原題は旧約聖書のヨブ記(28章13節)から
取った言葉のようです。
知恵や悟りは生けるものの地で得ることはできない
(しかし神は知っている)という文脈での言葉で
これを敷衍するなら、
ヒロインは自分自身について
「生けるものの地」では知ることはできない、
というような含みを持ったタイトル
ということになるかと思います。
最後まで読めば、なるほどと
頷けるタイトルなんですよね。
だから「生還」と付けると、ちょっとな~。
海外ミステリのタイトルには
聖書なんかからの引用が多いので、
(アガサ・クリスティーにもあります)
本書についてもそういう説明が
訳注か解説かで欲しかったところです。
ネットで検索すれば簡単に分かることですから、
読者が自分で調べて解釈する楽しみを
取っておいてくれたのかもしれないけど、
普通の読者は忙しくて
そこまで調べないでしょうから、
(うっ、自分は暇人なのか?【-_-; )
やっぱり書いてくれる方が
親切だったような気がします。