$圏外の日乘-黄昏に眠る秋
(2007/三角和代訳、ハヤカワ・ミステリ、2011.4.15)

以前紹介した『二流小説家』に続く
〈ポケミス新世代作家〉ツィクルスの第2弾。

スウェーデン推理作家アカデミー賞の
最優秀新人賞を受賞しただけでなく、
2008年に英訳が出て、
英国推理作家協会賞の
最優秀新人賞を受賞したという
受賞歴を持つ作品の翻訳(英訳からの重訳)です。


舞台はスウェーデンのエーランド島。
20年前にあたる1972年の秋に
一人の少年が失踪します。
その事件による
心理的なストレスを抱えたまま
哀しみに暮れ続けていた母親ユリアが、
今は老人ホームに暮らす父親のイェルロフから
新しい手がかりが出てきたとの知らせを受け、
事件が起きた故郷の島へ帰るというのが
物語の出だしです。

その被害者家族の探偵行と並行して、
犯人と目されているニルス・カントが
いかにして犯罪者となり、
そして少年と出会うに至った
半生の物語が挿入されており、
プロローグの時点で
少年とニルス・カントが出会う瞬間が
描かれています。

ユリアが島に帰ってくると、
それを待っていたかのように
イェルロフの友人である石工のエルンストが
謎の死を遂げます。
そしてイェルロフはどうやら
ニルス・カントが復活したと考えているらしい。

ニルス・カントは本当に復活したのか。
そして20年前、何が起きたのか……。


最初に犯罪者と少年の出会いが描かれ、
また少年の母親が精神的に落ち込んでいる状態で、
探偵役を務める少年の祖父は神経痛を病む老人
という設定であるため、
物語は遅々として進まず、
さして波乱があるわけでもありません。

実際に何が起きたのかという点が
曖昧模糊としたまま話が進むというあたりは、
イギリス人好みのような感じがします。
切ったはった、というか、撃ったはった
(そんな表現はありませんけどw)
が明確であるということは、
フィクションとしてはともかく
現実にはなかなかないこと、というのが
イギリス的なリアリズムという感じで。

謎解きの興味で読ませるというより、
犯罪被害者家族の再生をじっくりと読ませる
というタイプの物語なので、
こちらもタラタラとしてしまい、
読み終わるまでに3日ぐらいかかったのですが、
後半の150ページでやや波乱ぶくみの展開となり、
最後の20ページで、のけぞってしまいました。


過去の事件が現在になって解決を迎えたり、
犯罪被害者家族の再生を描いたり、
というのは最近の流行なのか、
『夜は終わらない』(2006)とか
『ブラックランズ』(2010)とか
ここ数ヶ月のうちに読んだ作品には
そういうのが続いている感じがします。

本書の場合、一見すると、雰囲気重視の
叙情性がウリの小説という印象なのですが、
実際のところは、プロットがよく練られており、
作者の計算が隅々にまで行き渡っている
構築的ないし人工的な小説といったところ。
上にあげた二作に比べると
こちらの方が好みですね。

最後までつきあうのが、ちょっとしんどい、
リーダビリティがやや低い
(まあ、個人差はありましょうけどw)
という難点はありますが、
完成度はかなり高いと思いました。