
(2010/杉本葉子訳、小学館文庫、2010.10.11)
翻訳家の松下祥子さんが
雑誌『ミステリマガジン』に連載している
コラム「ミステリ・ヴォイスUK」の、
現在発売中の5月号の記事中に
本作品が紹介されいました。
それによると、本作品は
CWA(英国推理作家協会)が主催する
新人発掘を目的とするデビュー・ダガー
(未出版の原稿が対象の賞)で次点となり、
出版されると同じくCWAが主催する
ゴールド・ダガー(その年の最優秀長編賞)
の候補となり、受賞してしまったのだそうです。
小学館文庫から翻訳が出たときは
まだノミネートされた段階で、
受賞するかどうか分からなかったのですが、
みごと金的を射止めてしまいました。
買っといて良かった(藁
文庫の訳者あとがきには、
デビューの経緯については
ふれられていなかったので、
上のような次第だと知り、興味が湧いてきて、
幸い、崩れた本の中から探し出せたので、
読んでみることにしました。
少年ばかりを狙う連続殺人犯に
息子を殺されて以来、
毎日窓辺に座って息子の帰りを待ち続け、
娘や孫につらくあたる祖母。
母親は兄の方がお気に入りだったことに気づき、
自分は愛されていないという思いを引きずって、
まともな家庭を築けなかった娘は、
今では2人の息子を持つシングル・マザーでした。
そうした壊れた家庭の関係を
何とか修復したいと思った12歳の少年が、
いまだに発見されていない叔父の死体を探して
荒地に穴を掘り続けていたんですが、
ある日、連続殺人犯本人に
手紙を出して聞いてみようと思い立ち
実行に移します。
それから、少年と連続殺人犯との間で
奇妙な手紙のやりとりが続き、
あるカタストロフに向かって
物語が進んでいきます……
松下さんのコラムで、
クリスティーは読んだことがなく、
謎解きは苦手、
影響されたのはスティーヴン・キング、
というインタビューでの発言が
紹介されています。
だからもしかしたら、キングの
『スタンド・バイ・ミー』が
意識されているかもしれません。
『スタンド・バイ・ミー』、未読なので
正確なところは分かりませんが(^^;ゞ
いずれにせよ
謎解きの方の楽しみはないだろうと
やや覚悟して読み始めましたが、
とにかく主人公の少年スティーヴンの
おかれている状況が、読んでてしんどい(苦笑)
取り立てて特徴もなく
先生からも名前を覚えられない、
天敵のような3人のいじめっ子にいじめられ、
唯一の友人も、必ずしもいい奴とはいえない。
12歳にして人生を諦めているようなところがあり、
母親も弟の方を愛している様子。
そんなスティーヴンの唯一の目標が
家族関係の回復で、
その方法が、殺された叔父の死体を探すこと
という設定ですから、めっちゃ暗い、
読んでて陰々滅々としてきます。
ただ、中盤を過ぎたあたりから
物語のテンポが多少良くなって、
あとは最後のカタストロフまで一気呵成。
(一気……半気呵成かなw)
最後は、それなりの感動に包まれます。
要するにこれはサイコ・スリラーと
少年の成長物語を組み合わせた作品でして、
そういうヤング・アダルト文学的な部分は
なかなか読ませます。
ミステリとしては、
やりとりされる手紙の解釈をめぐって
ああでもない、こうでもないと
推理を重ねるところが面白かったですね。
作者としてはそこが読ませどころなのかどうか、
たぶん違うと思いますけど(藁
自分的には、そこらへんを
ネチネチと書いてほしかったなあ、と
思ったことでした。
CWAはときどき、
なんでこれが? と首をひねるような作品に
ゴールド・ダガーをあげたりもしますが、
本作品はまだマシな方。
て、誉めてないか、これじゃ(^^;ゞ
暗いは暗い話なのですが、
暗いなりにユーモアが感じられなくもないです。
分かりやすいブラック・ユーモアではありませんが、
ともあれ、しんどい話が苦手じゃない人は、どうぞ。