
(2005/白石朗訳、扶桑社ミステリー、2011.2.10)
スティーヴ・マルティニは
スコット・トゥローやジョン・グリシャムと並ぶ
リーガル・サスペンスの書き手です。
(とはいえ Wikipedia に項目がないので
知名度は少し落ちるのかな?)
とはいうものの、
この三人の紹介が盛んだった頃、
翻訳には手を伸ばしませんでした。
トゥローの『推定無罪』(1988)は
かろうじて読んでますが、
(あと1冊くらい、読んだかも)
グリシャムは全滅。
マルティニは、法廷ものではない
『ザ・リスト』(1997)だけ読んでる
といった体たらくです。
(『ザ・リスト』はベストセラーリストを指し、
それに載るにはどうしたらいいか
をめぐるサスペンス、だったと思います【^^;ゞ)
だから実質的に今回が
リーガル・サスペンスの書き手マルティニの
お手並み初体験ということになります。
ただ、それよりなにより驚いたのは
マルティニの本は、本国アメリカでは順調に
ほぼ年1冊のペースで刊行されているのに、
翻訳の方は2001年で途切れていて、
今回の作品が実に9年ぶりの翻訳だということ。
マルティニにはポール・マドリアニ弁護士という
シリーズ・キャラクターがおり、
『策謀の法廷』はその第8作にあたります。
政府が推進する安全保障情報プログラムを手がける
ソフトウェア企業の女性経営者が
自宅で何者かに射殺されます。
容疑者として被害者の身辺警護を務めていた
元軍人のガードマンが逮捕されましたが、
彼は犯行を否認。
マドリアニがその弁護に立つことになります。
ところが国家安全保障上の措置に阻まれて
思うように情報が集まらない。
それどころか、
国家が関わる計画に探りを入れるなと
脅迫を受けてしまいます。
そして、いよいよ裁判が始まるのですが……
裁判が始まるのは下巻の80ページに入ってからで、
それまでは、マドリアニのチームが
事件の背景を探るのに苦労する経緯が描かれます。
国家安全保障上の障害を乗り越えて
マドリアニは裁判に勝利できるのか、というのが
リーガルものとしての興味の中心ですが、
マドリアニは思い切った奇策を講じていきます。
シリーズものである以上、
マドリアニが勝つことは約束されているので、
あとはどうやって勝つか、という
ハウダニット howdunit の興味になるわけですが、
(というか、ならざるをえないわけですが)
この奇策には唖然とさせられました。
で、裁判が終わって気を許していると
急転直下、意外な真犯人の正体が明かされます。
推理のネタからいえば、犯人の不用意な一言という
よくあるものなのですが、
その伏線が長い長い裁判の過程の中に
分散されて示されていて、
(法廷だけとは限りません)
読み手に気づかせないという書き方なわけです。
だから、意外ではありますが、
鮮やか! という感じはしませんでした。
だって、ネタ的には1ポイントだけなんだもの(藁
犯人の正体は意外だとしても、
被害者が持ち帰ったガラス製の芸術品を
犯人がなぜ現場から持ち去ったのかも、
(そして、どうやって持ち去ったのかも)
充分に説明しきれてない気がします。
だからフーダニット whodunit としては
今イチ物足りないのですが、
それでもやってくれるだけ、いい方かなあ(藁
リーガル・サスペンスとしては、
上にも書いた通り、シリーズものということで
サスペンスが減じられるため、
(それでもドキドキしましたけどねw)
裁判に入るまでがやや長いような気はするものの、
その点を差し引いても、
そこそこ楽しめる水準ではないかと思います。
国家安全保障という錦の御旗によって
個人情報が管理される危険性に対して
警鐘を鳴らすというのがテーマのひとつでもあり、
マドリアニの奇策がそれと絡んでくるあたりは
お見事でした。
だから余計、フーダニット部分が
蛇足のような気がするのかもしれませんけどね。