
(1974/池 央耿訳、新潮社、1975.7.10)
ロバート・レッドフォード主演の映画
『コンドル』(1975)の原作本です。
映画の方の原題では
Three Days of the Condor と
なぜか3日減ってますけど(藁
とはいっても、
映画の方は観たことがありません(^^;ゞ
同じ作者の(表記はジェイムズ・グレイディ)
『狂犬は眠らない』(2006)という作品が
ハヤカワ・ミステリ文庫で出た時に
その訳者あとがきでふれられていて知りました。
『狂犬は眠らない』の方は
精神病院に入院中の元CIA職員が
病院内で起きた殺人の容疑を晴らすために
脱走して調査を開始するというお話。
処方された精神安定剤が切れる前に
何とか犯人を見つけ出さなくちゃならない。
設定がぶっ飛んでいて面白かったのですが、
この『狂犬は眠らない』の中に出てくる
精神病院の最上階に永久収容されている、という形で
『コンドルの六日間』で主役を張った
コードネーム〈コンドル〉が
ゲスト出演しています。
それ以来、気にしていた作品だったのですが、
1975年に翻訳された作品ですから、
当然ながらすでに品切れ絶版状態。
ところが、つい先日、
近所(といっても自転車で20分ほど)の
古本屋の100円の棚で見つけたのでした。
『狂犬は眠らない』が出たのが2007年ですから
実に5年越しの出会い。
長年のしこりがようやく解けました(藁
本の長さ(ページ数)は
『狂犬は眠らない』の3分の1ほどだったので
すぐ読めました。
(ちょっとあっけないくらいです)
コードネーム〈コンドル〉こと
ロナルド・マルカムは、
CIAの下部組織に勤めている職員で、
ある日、昼食の買い出しに行っている間に
何者かによって同僚が惨殺されてしまう。
たまたま買い出しに出ていたおかげで
命拾いしたマルカムでしたが、
緊急電話で連絡を取ったあとに迎えにきた
職員のうちの一人が、
買い出しに行く途中で見かけた怪しい男と気づき、
発砲騒ぎを起こして逃げてしまう。
怪しい男は下部機関の上司だったこともあり、
マルカムはFBIやらCIAやら警察やらに
追われるはめになります。
完全なる内勤職員で、
外勤職員ほどの技能は備えていないのですが、
幸運にも助けられつつ、敵の攻撃から逃れていく
という、まあ今となっては
星の数ほどあるプロットの作品ですが、
(『ぼくを忘れたスパイ』もそうだったわけでw)
くどくど書かずに
ストーリーを進めていっているので、
さくさく読めます。
マルカムがやっていた仕事は、
アメリカ文学の中から情報を拾い上げ
分析するというもので、
マルカムはミステリを担当してました。
その仕事がらみで、最初の方に、
レックス・スタウトやら
ディクスン・カーやらの名前が出てくるのが、
個人的には大ウケでした。
なにせ、マルカムが
CIAにリクルートされる経緯が、大笑い。
大学院修士課程の最後の筆記試験で
(向こうにはあるんですねえ、そんなの)
最後の問題として次のようなものが出て、
「セルヴァンテスの『ドン・キホーテ』の中から最低三つの出来事を取上げて詳細に論ぜよ。特に、個々の出来事の持つ象徴的な意味を他の二つの出来事及び作品全体の構成との関連において詳述すること。また、セルヴァンテスがそれらの出来事を、ドン・キホーテとサンチョ・パンサの性格を描く上でいかに使用しているかを明らかにせよ」(pp.22-23)
(「特に」とか「また」とか付帯条件がついてて、
ホントにこんな問題が出るのか、
というくらい難しそうですが【藁】
作者もわざと書いてるんだと思います。
大学院の筆記試験のパロディですね)
マルカムは次のように解答します。
「私は『ドン・キホーテ』を読んだことがない。確か、風車と闘って負けた人物だったと思う。サンチョ・パンサがどうしたかについては私は知らない。
「ドン・キホーテとサンチョ・パンサは一般に正義を探し求める二人組と考えられており、二人の冒険はレックス・スタウトの最もよく知られた登場人物、ネロ・ウルフとアーチー・グッドウィンの冒険に比較し得る。例えば、ウルフの古典的な冒険談『黒い山』において……」(p.23)
試験の後にスペイン文学の教授から呼ばれて、
ミステリは好きかと聞かれたマルカムは、
「ミステリを読むことで(略)学生生活を通じて
かろうじて正気を保つことができた」
と正直に答えると、
(作者の本音かも、と考えると愉しいw)
そうやって正気を保つことで
給料をもらえる仕事をやりたくないか、
という更なる問いかけに、やりたいと答えたら、
教授がCIAに電話した、という経緯なんです(藁
(ちなみに当時未訳だった『黒い山』は
現在はハヤカワ・ミステリで読めます)
訳された時代が時代だけに、
訳者あとがきでも、オビの惹句でも、
何だかシリアス・スパイもののような
紹介のしかたをしてますが、
上のような大学院での場面なんかがあるし、
今読むと、素人がプロに逆襲する展開の面白さは
半分シャレで書いてるんじゃないか
とも思ったり。
後半の攻防戦の出だしなんて、
あっけにとられるような偶然から始まるし。
そんなわけで、そこそこ面白いし、
最初に書いた通り映画化もされた作品なのに、
なぜか文庫化されてません。
なぜでしょうね。
ちなみに
『コンドルの六日間』を読んだ限りでは
なぜコンドルが永久収容されることになったのか
分かりません。
コンドルが再登場する
Shadow of the Condor(1975)
という続編があるようですが(未訳です)
そちらを読めば分かるんでしょうか……