
(祥伝社、2010年12月10日発行)
蒼井上鷹(あおい うえたか)って
割と好きな作家の一人です。
トリックやロジックで読ませるというより
シチュエーションで読ませる作家というか、
毎回新作が出るたびに、
よくこんな設定を思いつくな~とか
(それだけでもすごいのに)
よくこんな設定で書こうと思うな~とか
感心させられることしきりです。
昨年暮れに出た『バツリスト』は
書き下ろし長編で、
息子を自殺に追いやった人間を成敗する
という父親の情念に巻き込まれた、
というか自ら巻き込まれていった
人間たちをめぐる物語です。
息子が日記で、
名前にバツを付けていた人間が
息子を追いつめた奴だとして、
その名前をリストアップして
復讐を果たす、と言う父親。
たまたま最初の一人を手にかけた時に
通りかかった人間が、復讐者の知人で、
そこから話が転がり始め、
復讐の手助けをする集団バツリスト
(「バツを付ける+テロリスト」の合成語)
が誕生するんですが、
もちろん本書は
必殺仕事人のような展開にはならないで、
思いもかけない方向へと
物語が転がっていきます。
やや偶然が勝ちすぎている感じですが、
それが気にならないのは、
本書が舞台劇ないし舞台の密室劇を
彷彿とさせるところがあるからでしょう。
密室劇という表現が
正しいかどうか分かりませんが、
要するに、舞台に組まれたひとつの空間で
話が展開していくタイプのお芝居です。
奈央ちゃんが出演した
『ワカチアウ』なんかは、その典型かと。
復讐を(その復讐も仕掛けありなのですが)
えんえん続けるわけにはいかないのは
もちろんですが、
まさか、ある登場人物が
名探偵よろしく謎解きをする場面があるとは
思いませんんでした。
そして謎解きだけで終わることなく、
謎解きによって物語は新しい局面に入り、
どんでん返しの連打がやってきます。
それはまあ、単にどんでん返しというだけで、
読者に挑戦したりというタイプの作品ではなく、
とにかく物語に身を任せ、
え~、そうだったの~、と
びっくりしていればいい作品に仕上がってます。
とはいえ、その流れが自然なように
いろいろ仕掛けられてはいるんですが、
(それを伏線というのかもしれませんけどw)
そこらへんの小ワザの利かせ方とか、
登場人物の出し入れとかが
ほんと芝居の呼吸みたいなんですよね。
別に、登場人物に芝居関係者が多いから
というわけではないでしょうが、
そのまま芝居になる感じというか。
もう先に亡くなったミステリ作家で
都筑道夫という人がいますけど、
(自分のお気に入り作家の一人なんですが)
蒼井上鷹は、平成の都筑道夫
といいたいくらい、似た印象を、
その作品からは受けます。
おすすめできる一冊です。