
(2010/古賀弥生訳、創元推理文庫、2010.12.17)
以前紹介した
『パイは小さな秘密を運ぶ』の続編で、
11歳の化学ヲタク少女
フレーヴィア・ド・ルースが活躍する
シリーズ第2作です。
今回は、フレーヴィアの住む村に
BBCテレビでおなじみの人形劇をやっている
人形遣いとその助手が到着し、
その演目の最中に殺人事件が発生するというお話。
いわゆる舞台上の殺人
というシチュエーションです。
人形劇の舞台だというあたりに、
ちょっと新趣向あり、といったところ。
この、事件が起きる瞬間の描写は
たいへん印象的です。上手いですね。
事件が起こるまでに400ページ中
170ページほど費やしますが、
ストーリー自体が楽しめるので
するする読めてしまいます。
ただ、前にアップした
『パイは小さな秘密を運ぶ』の
自分の感想を読むと、
プロットの組み立ては
前作と大して変わらないかも、と思ったり。
シリーズものだから
それでもいいともいえるのですが……
今回読んでて思ったのは、
主役のフレーヴィアこそ11歳の少女ですが、
探偵キャラとしては
アガサ・クリスティーのミス・マープルを
お手本にしているのではないか、と。
最後に警官たちを前に謎解きをする場面で、
前作にも登場したヒューイット警部補が
なぜ警察がフレーヴィアほどの
情報収集力がないのだと部下に問うた時、
「それは、われわれがド・ルース嬢では
ないからでしょう」と応える。
それに対してヒューイット警部補は
次のように応じます。
「そうだな、そのとおりだ。われわれは
ビショップス・レーシーの家庭や炉端に
彼女ほど入っていけない。そうだな?
その点は改善の余地がある。
メモしておいてくれ」(p.386)
フレーヴィアはいろんな言い訳を立てつつ
(時には荒唐無稽なものもある感じで)
「家庭や炉端」に入っていき、
噂話やなんかに耳を傾け、情報を得る。
村の人たちもフレーヴィアが
好奇心旺盛な探偵娘だと、
ある程度は分かってるわけです(苦笑)
そこらへんがミス・マープルものを
彷彿させるのかなあと思ったり。
今回は化学ヲタクぶりが効いていて、
犯人を告発する場面では
思いもかけない展開を見せます。
ただ、
伏線とかはきちんと張ってあるし、
プロットもそれなりに練られてはいるのですが、
ミステリとしては、ゆるゆる(苦笑)
特に6年前の事件、
足跡のない殺人テーマかと思ったら、
行きは良い良い帰りは、え~~~? な感じで
ちょっと苦笑させられました。
それでも、ミステリとは別の部分、
解説でも書かれていますが、
フレーヴィアと伯母さんとの一瞬の交感とか
戦争神経症を抱える下男(?)との交流とか、
キャラを立てる小説的部分は実にいいですね。
姉たちの理不尽ないじめが唐突に挟まるあたり、
(昨今のような暴力的なものではありません。
とはいえ、だから余計傷つくと
いえるかもしれませんが)
良質の児童文学のノリすら感じさせます。
あと、村にドイツ軍の捕虜が
勤労奉仕者として住んでいるのですが、
この青年の過去も
なかなかの読ませどころでした。
さらっと読めて、そこそこ楽しめる。
ジャンルとしてはコージーかもしれませんが、
主婦やら猫やらが出てくるアメリカのそれよりは
嫌みがないのが救いです。
(ちなみに原作者はカナダ人)