
(講談社ノベルス、2010年9月6日発行)
ちょっと必要があって
小島正樹の小説を
デビュー作から順に読んでます。
小島正樹は、島田荘司との合作長編
『天に還る舟』(2005)でデビューし、
2008年発表の『十三回忌』から
単独で長編ミステリを発表し続けています。
名探偵が登場するタイプの本格ミステリの作家で、
海老原浩一という素人探偵が活躍するシリーズと
リバーカヤック愛好会Mayfly(「かげろう」の英語名)
の面々が活躍するシリーズの、
二系統の作品を書いています。
作風は、旧家や
曰くあり気な一族(一家)の間で起きる
連続殺人事件——それも
密室殺人などの不可解な状況を示す殺人事件の
謎解きをメインとするものです。
中では、Mayflyシリーズの第一長編
『武家屋敷の殺人』(2009)が、
よくもまあここまで複雑な話を考えた
(やりすぎじゃないかw)
というくらい、企みに満ちた、
そしてそれだけでなく奥行きのある
秀作かと思います。
『四月の橋』は
Mayflyの面々が登場する長編の第二作で、
現在のところ、最新作です。
同じ講談社ノベルスから出た
『武家屋敷の殺人』が
トリックとガジェットを
詰め込みすぎるくらい詰め込んだ
小説だったこともあってか、
『四月の橋』のオビには
「トリックなしの掟破り!」
とか書かれてます(藁
確かに本書には、
密室とかアリバイとか不可能犯罪とか
分かりやすいトリック趣味はありませんが、
「トリックなし」というのはいいすぎで、
正しくは「ガジェットなし」でしょう。
悪い状況が重なって必然的に
ある状況に追いこまれていく、
そのために謎が生まれるというプロットが
無理なく語られています。
そのシチュエーションの積み立て方は
本格ミステリで鍛えた技法が駆使されていて、
分かりやすいトリック趣味の小説には
どちらかというと鼻白んでしまう自分には、
むしろ楽しめました。
そして、終盤に訪れる或る状況、或る絵柄には
素直に感動しました。
その絵柄によって本書は、
スポーツ・ミステリとでもいえそうなものに
なっている気がします。
これは、この作者にしか書けない(描けない)
絵柄であり、作品であると思います。
(作者はリバーカヤックが趣味なんだそうです)
その意味で、
他の作品とは明らかにタッチが違うし、
デビュー作から読み続けている読者には
(デビュー作以来のタッチを求める読者には)
あるいは失望感を抱かせるかもしれませんけど、
個人的にはこの作者の
現在のところの最高傑作だという気がします。
(いちばん短い長編なんだけれども【苦笑】)
こういう作品が書けるんだと分かって
ある意味、ホッとしました。
詳しいあらすじは書きませんが、
事件の被疑者の容疑を晴らすストーリーが
メインとなります。
泣きの要素もいっぱいあって、
(ちょっとクサイくらいですw)
他の作品よりは一般受けしそうです。
このブログを読んで
実際に作品を読んでみて、
小島正樹はこういう作品を書く作家だ
と思われても、
今のところ困るのですが、
(他のは、ホント、傾向が違います)
この作品に限っては
もっと読まれてもいいかなあ
という気がしましたし、
これが良かったという読者がつけば、
またこういうのを
書いてくれるかもしれません。
おススメです。